航空図のはなし(改訂版) 交通ブックス306


978-4-425-77752-5
著者名:太田 弘 編著
ISBN:978-4-425-77752-5
発行年月日:2009/5/18
サイズ/頁数:四六判 208頁
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目印のない空を飛行機はどのようにして飛んでいるのか。空の地図「航空図」をわかりやすく解説。旅の楽しみ方が増える楽しい一冊。本書を読めば、今まで退屈だった空の旅も楽しくなり、窓際の席に座りたくなります。

【はじめに】より
空を飛ぶ「地図」って何だろう?
今から100年前、いや70年前の1939年でもいい、人間は1万メートルの上空から地上を眺めることはできなかった。今もこの瞬間、世界の空には何千という航空機が1万メートルの高度でクルージングしている。窓側の人は眼下に広がる大地のパノラマを眺め、多くの人は「地図といっしょだなー」とつぶやく。運悪く地上が雲で覆われていても、窓からはスカイブルーの抜けるような青空と果てしなく続く雲海、上層を流れる雲を見て地球の神秘を知ることができる。夜間飛行で真っ暗な闇夜を飛んでいる時は、満天の星を見てさまざまな人生の想いと重ねて眺めるに違いない。今、私たち現代人は旅客機に乗って、簡単に100年前の人類が見ることができなかった「神の目」で地表を眺めることができる。
1903年ノースキャロライナの野原でライト兄弟が、試作機キティーホークで地上を数メートル離れてから100年を経た現代、航空機は飛躍的な進歩を遂げた。今や航空機は、20世紀前半に大海を横断する客船に取って代わる長距離を移動する最もポピュラーな交通機関となった。航空機は地球の大きさからすれば、たとえB747、B777やA380と言う巨大機といえども、100万分の1の縮尺の地図ではゴミの様なわずかな点でしかない。
しかし、現代の航空機はアビオニクスという電子頭脳を持って、遥か1万数千キロ離れた点である滑走路の端をめがけて、寸分の狂いも無く正確に到達できるシステムを持っている。私たちは地図を用いて目的地に安全かつ効率的に到着できる技法を「航法=ナビゲーション」と呼ぶ。この航法の中で空を飛ぶときに用いる地図類を「空の地図(Air Maps)=航空図(Aeronautical Maps and Chapter)」と呼ぶところからこの話を始めたい。
作家 サン・テグジュペリと空の地図 童話「星の王子さま」で有名なフランス人の文学者であり飛行家であったサン・テグジュペリは、彼の著書の「夜間飛行」の一節で「空の地図」=「航空図」を次のように描いている。
「航空図はパイロットにとって最も大切な飛行道具であり、また、あまりにも残酷なものである」と・・・
「航空図」は飛行家にとって最も基本的で、且つ、最も命に関わる情報を与えてくれる資料である。彼は、世界の多くの読者に読まれている絵本、「星の王子さま」を著し、第二次世界大戦中の戦うパイロットでもあった。最後は、地中海に墜落し、命を落とす。
月の明かりのない真っ暗な夜、満天の星はあるが、地上の姿は見えない。大海の上を飛ぶ機体の狭いコックピット、薄暗い赤いランプの下、操縦桿を握りつつ、眼下の目標物を必死に眺め、現在の飛行位置を割り出し、進むべき航路を決めるために必要なものが、「航空図」である。「航空図」の利用は、地図を読む=「読図」作業のすべてが、地上とは異なる過酷な環境下での作業である。
これは「海図」が狭いとは言え、ブリッヂの中のチャートルームを独立して持っている状況とは大きく異なる。サン・テグジュペリは、第二次世界大戦も末期、1944年7月31日、P-51戦闘機で地中海のマルセイユから偵察飛行に飛田立った後、消息を絶つ。
それから早60余年を経た現在、航空機は第四世代と呼ばれるハイテク機が全世界の空を飛び回るようになった。鳥小屋と称された「コックピット」は風や霧など外界と直に決して接することのない言わばヴァーチャル(仮想)に近い作業環境の中で、かつて、サン・テグジュペリが膝の上で開いた紙の「航空図」に代わって、今は操作ボードで選択されたLCDの画面の電子的な地図画像情報が主役になりつつある。

「1万メートルからの地球の絶景」 このタイトルは、ジャンボ機(B747)の機長、杉江弘氏が著した「高度1万メートルからの地球絶景」の写真集からの引用である。杉江機長がデッドヘッド(便乗)時に撮影した地上のまりのままの姿は、この上なく美しい。十数時間に及ぶフライトもこのような地上のパノラマが次々に展開するのを眺めていると決して長くは感じないし、人間と自然、地球と人間など、日頃の生活とは全く別の空間に浸ることができる。また、杉江機長の地球の自然を見る姿は、人間社会の平和への願いや自然への畏敬の念へと繋がっていく。
こんな時、手元に地図、それも「航空図」があれば、どれほど楽しいだろうか? 「航空図」でなくとも、学校の地理の授業で貰った地図帳でもよい。機内の座席ポケットに入っている機内誌の巻末でもよいが、少し縮尺が小さすぎて飛行機から見える地上の形状から位置を決めるにはかなりの地理的スキル(技能)が要る。1万メートルの高度からだと天気さえ許せば、ほぼ420キロメートルほど先までの地上が見えるので、そのようなスケールで地上と地図を照らし合わせるには、100万分1程度縮尺の地図が望ましい。着陸時や離陸直後など、高度が低い場合は50万分1の縮尺程度の図が良いかも知れない。また、1万数千キロを飛ぶ超長距離のフライトでは「大圏コース(great cicle route)」がよく判る地球儀や最近ではコンピュータに入ったデジタルアトラスも使える。
私の飛行機の旅では、窓側が必須条件で、やはり紙の100万分1程度の縮尺の「航空図」も必須アイテムだ。座席に地図を広げて、時々刻々と変化する地上のパノラマを眺めつつ、グラスを傾け、美味しい機内食を食するのは、航空マニアでなくとも空の旅の醍醐味と言えるだろう。

空の地図=「航空図」はパイロットの占有物か? 私たちのような一般の乗客が機内誌の地図に飽き足らずに、「どんな地図を持って乗ると地上のパノラマが楽しめるか」・・・の問いは難しい問題であるが、今、まさに飛んでいる位置を見つけるためには、眼下の地上の地形の特徴が地図に分かり易く表現されていることが必要であろう。今や、機内に現在の位置や速度や高度、目的空港の到着時間がリアルタイムに表示される機内のサービスがある。また、機内誌の巻末にも航空会社が運航する路線を示すルートマップがある。しかし、いずれの地図も表現が大雑把で、眼下の詳細な山や川、町を判別するには不十分であると思うのは私だけだろうか?
もし、家に学校で使う中学校地図帳があって、それを持って飛行機に乗れば、眼下の地形を判別するのに随分と役立つだろう。
空の旅をドラマチックにするために、地上のパノラマを間違わずに読み解くため・・・、ある程度、詳細な地図を持って飛行機に乗ってみると良い。
さて、「パイロットはどんな地図を使って、現在地を割り出し、また、目的地の空港まで、正確無比に飛んでいるのだろうか?」そんな疑問にもこの本では答えてみたい。つまり「航空図」とは何であるか? 「航空図」にはどんなものがあるのか? その歴史はどこまでさかのぼるのか? そんな疑問に本書では答えてみたい。
「航空図」は「海図」と同様に利用者が、パイロットや船舶関係者などの限定された極めて特殊な地図類である。一般の人の目にはあまり触れない地図のひとつである。
従って、容易に手に入るものではないと思われているのではないだろうか? しかし、100万分1の縮尺で、ヒマラヤ地域や中国奥地、アフリカや南アメリカの奥地など、世界のどの地域でも同一縮尺で日本の国内で比較的簡単に書店などで手に入る世界の地図が「航空図」であることをご存知だろうか?
名称は「JNC(Jet Navigation Chart)」、「ONC:Operational Nabigation Chart」と呼ばれる地図で、アメリカ政府(NOAA:国立海洋大気圏局)が発行する「航空図」である。大都市の大手書店で共に「航空図」という名称で販売されているが、最大の特長は同一の縮尺(100万分1、50万分1)で全世界のどの地域でも手に入ることである。
本来「航空図」であるので、すべての空港と滑走路の長さ、航空無線の周波数などの航空情報も記載されている。が、それ以上に、陰影の付いた地形の起伏、河川、湖、ダム、鉄道、道路のほか、都市のアルファベット表記での地名など、多目的に利用が可能な地図である。
では、まずは、ナビゲーションの地図である「航空図のはなし」を始めたい。

【目次】
第一章 空のナビゲーションと地図
 1.「航法(ナビゲーション)
 2.空を飛ぶための主題図が「航空図」
 3.主題図としての「航空図:の要件
 4.ランベルト正角円錐図法(二標準緯線)
 5.航空情報を集約し表現する航空図
 6.ナビゲーションマップのシークエンス(区間利用)
 7.ヒューマンファクターと航空図 第二章 航空図の歴史
 1.世界の航空図:バルーニストから飛行士へ
 2.航空機の登場と航空用の地図の誕生
 3.より安全な飛行を求めた計器飛行用の「航空図」
 4.戦時中のアメリカの航空図
 5.戦後のアメリカの航空図
 6.現状のアメリカの航空図
 7.現代のカナダの航空図

第三章 ジャプセン・チャート
 1.アメリカの民間会社が握る世界の航空図と航空情報
 2.ジャプセン機長と航空図
 3.現代の「ジャプセン・サンダーソン社」(Jappesen & Sanderson)
第四章 現代の国際民間航空図
 1.ICAO航空図の誕生
 2.戦後の国際民間航空図
 3.ICAOの成立とICAO航空図の誕生
 4.世界標準としてのICAO航空図
 5.ICAO航空図類
  WAC(100万分の1国際航空図)
  WAC以外のICAO航空図類
 6.ICAO航空図の種類とその歴史的変遷
  ICAO航空図の黎明期
  ICAO航空図の大躍進期
  第二世代のICAO航空図
  第三世代のICAO航空図
  GPSの登場による航空図の変容
  7.2005年のモントリオール

第五章 わが国の航空図
 1.日本のWAC・ルートチャート
  国際民間航空機関(ICAO)と航空図
  航空図と国内航空図
  航空路図(縮尺100万分の1)
 2.航空図をつくる
  わが国の航空図作成の伝統ある政府機関
  (海上保安庁海洋情報部)
  AIPと航空図の編集・作製
 3.民間でつくる航空図-航空会社が作製する航空図-

第六章 旧帝国海軍の航空図
 1.戦前・戦時中の航空図
 2.第1次日本海軍航空図
 3.第2次日本海軍航空図
 4.陸・空軍用の航空図

第七章 「空のナビゲーションの教室」
      空中航法(ナビゲーション)と航空図
 1.教室:「航空図」に用いられる地図と図法
 2.教室:極地方の航法:グリッド・ナビゲーション
 3.教室:航法の実際と航空図との関係 風力三角形
 4.作業実習:有視界飛行(VFR)で飛ぶ計画を立てる
 5.実機訓練:宮崎空港から佐賀空港へ
 6.教室:GPSはナビゲーションにとても役立つ
 7.教室:計器飛行方式(IFR)
 8.講義のまとめ:「飛行方式と航空図の種類」

第八章 インタビュー:パイロットにとっての航空図
   (中園幸男、聞き手:太田弘)
 ・民間機A320のキャプテン中園氏に聞く航空図・地図の世界
 ・民間機がナビゲーション(航法に用いる航空図):ジャプセンチャート
 ・航空大学校の訓練生時代の航空図
 ・最近の航法での地図の利用は?
 ・パイロットは航空図に何を求めますか?
 ・カーナビのような電子の航空図が果たして便利なのか?
 ・非常に正確なGPSアプローチの時代がすぐそこに
 ・やっぱり飛行機は窓側に座らないと
 ・紀内のナビゲーション表示システムサービス
 ・飛行機は1万メートルから見る地球の俯瞰パノラマ
 ・自分のフライトブックとチャートのメンテナンス
 ・フライトデッキでのヒューマンファクター(人間工学的配慮)
 ・富士山は格好のフライトナビゲーションの目標物
 ・地図は面白い!
 ・訓練生時代のさまざまな経験が生きる
 ・ETOPS時代の新しいチャート
 ・INS-GPS航法の時代
 ・空の地図はロマンの世界-コックピットから紙地図は消えるか?
 ・着陸の際、名パイロットの腕をコンピュータは取って代われるか?
 ・地図は「マップ」か「チャート」か?
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