青函連絡船 洞爺丸転覆の謎 増補版 交通ブックス211


978-4-425-77103-5
著者名:田中正吾 著
ISBN:978-4-425-77103-5
発行年月日:2025/9/28
サイズ/頁数:四六判 238頁
在庫状況:予約
価格¥1,980円(税込)
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1954年9月26日、1430名の命を奪った大惨事「洞爺丸事件」から様々な教訓を学んだ(元)青函連絡船船長が本事件の全てを解説。
増補版では、この間の関連分野での進歩・発展の状況とともに、洞爺丸事故の「教訓」を風化させないために続けられているさまざまな活動を追っています。

【増補版発刊にあたって】 洞爺丸事故から、昨年で70年の歳月が流れました。
一九五四年九月二六日、台風一五号(洞爺丸台風)の接近するなか、出航した青函連絡船「洞爺丸」は、北海道・函館港で転覆、1155人(他の船の犠牲を合わせると1430人)もの尊い命が失われました。日本の海難史上、決して忘れることのできない、痛ましい事故です。
本書の初版は、洞爺丸の事故から40年を経た1997年に、父である田中正吾が著したものです。
大正6年(1917年)に生まれ、少年期から海に憧れ、船乗りとしての道を志した父。しかし、戦時中には多くの戦友や仲間を海で失いました。平和な時代に海を走る船の運航に携わることは、父にとってまさに「理想」であり、願いでもあったのだと思います。
父は事故の三年後、船舶運航のプロフェッショナルとして国鉄に入社しました。現場での運航経験を重ねた後、本社にて事故の原因究明や新造船の導入、さらには組織的な安全対策の整備に尽力しました。
特異な台風という自然と向き合いながらも、最後まで職務をまっとうした乗組員たちへの敬意と誇りを、父は何よりも大切にしていたようにも思います。海を愛する男として、犠牲者への鎮魂と、平和で安全な航行への強い祈り、それが、本書執筆に込めた父の想いであったのかもしれません。
この洞爺丸事故が、「船長の判断ミス」だったとさまざまな方面で言われることに対し、本書は、異常気象としての台風の特性、現場で奮闘した乗組員たちの努力、そして事故後に取り組まれた原因究明や安全対策の経緯を記録し、事故を多角的に捉える新たな視座を提示しています。一九八八年の青函連絡船の廃止も、単に航空路線の発展や青函トンネルの開通などといった問題ではなく、この洞爺丸事故に対する責任としてのひとつの歴史的な答えだったのかもしれません。
もうひとつ、日本の近代化において、洞爺丸をはじめとした青函連絡船は、本州と北海道を結ぶ大動脈としての役割を果たしてきました。下関〜門司間の関門連絡船に続き、本格的な車両甲板を導入した鉄道車両航送船として、直接貨車を積載し運ぶという画期的な輸送システムを実現したのです。
一方、洞爺丸事故では、その車両甲板という構造の脆弱性を露呈したという事実もあります。事故を機に国鉄では安全対策が講じられ、青函トンネルの開通による航路廃止まで青函連絡船は活躍したのです。洞爺丸の仲間であった青函連絡船の「八甲田丸」「摩周丸」は、現在も保存されており、その姿をみることができます。これらの船は、洞爺丸の事故のモニュメントでもあり、また、遺構として日本の海上交通と造船技術、そして社会の変化を今に伝える貴重な証言者であるともいえます。できうれば、「安全運航」への願いとともに、日本の近現代史と産業の歩みを語り継ぐ「生きた資料」として、文化遺産あるいは産業遺産として残されていくことを心から願ってやみません。
そしていま、本書の初版刊行から30年近い歳月が経ちました。この間、私たちの社会は大きく変化しました。気候変動による異常気象の常態化、大規模災害の頻発、さらには新型コロナウイルスのパンデミックなど、さまざまなかたちで「危機の時代」と呼ばれるようになっています。
人知を超える自然の力と人間の知恵との対峙は、文明が向き合い続けなければならない本質的な課題なのでしょう。ただ、残念ながら、海洋国である日本では、漁船や旅客船の事故が後を絶ちません。2022年には知床沖において観光船「KAZUI」の沈没事故も発生しました。報道されるものは限られているとはいえ、運輸安全委員会などの事故調査報告書を見れば、日々、大小さまざまな海難がいまだ多く発生している現実もあります。
洞爺丸事故は70年という歳月を経てもなお、自然の脅威と人の判断、新たな科学技術、組織と責任、安全と信頼などについて、私たちに問いかけ続けているのではないでしょうか。
本書が、その記憶と記録を風化させることなく、現代に生きる私たちが改めて「安全とは何か」に向き合うための一助となることを、心より願っております。
本書の特長のひとつは、単なる事故の記録や論証にとどまらず、読者自身が時系列に沿って事故を追体験し、自ら思索を深める余地を意識的に残している点にあると思われます。それゆえに、危機への向き合い方を考える資料としての価値も高まるのではないでしょうか。
今回の増補版の発行にあたって資料を調査するなかで、東京の国鉄本社勤務時代、休日にラジオから流れる天気予報を聞きながら、いつも天気図を描いていた父の姿が思い出されました。退職後、海難審判庁への再就職の誘いを家族の期待に反して固辞した際の父の静かな想いも、今なお印象深く心に残っています。
洞爺丸事故により犠牲となられた皆様に深く哀悼の意を表するとともに、本書がその記憶と記録を風化させることなく、現代に生きる私たちが「安全とは何か」に向き合うための一助となることを、心より願っております。
最後に、本書の意義を理解し、増補版としての再発行を快諾いただいた成山堂書店さま、再発行の発案時から、励ましをいただくとともに、増補版の原稿をまとめていただいた元交通新聞社・上地さま、さらに多くの友人知人の皆さまに、父に代わって心より感謝申し上げます。
本書の刊行が、あらためて海の安全運航のための一助となることを願っています。
2025年8月
田中正吾 三女 舛田 麻美子


プロローグ  洞爺丸事件
 津軽海峡の主役交替-洞爺丸対策の総仕上げ

第一章 しょっぱい川  三塩の険
 青函定期航路
 国鉄青函連絡航路
 戦後の復興
 連絡船ダイヤの話

第二章 一九五四年九月二六日  悪魔のいたずら
 二分間の停電
 茜色の夕焼け
 最初のいけにえ

第三章 台風との闘い  慟哭の記録
 日本海難史上最悪の惨事
 阿鼻叫喚の七重浜
 生と死と

第四章 台風が去って  驚天動地の第一報
 弔慰金 全面解決に一七年
 参事の原因と世論

第五章 洞爺丸は何故沈んだか  原因究明の論理
 あとでわかったこと
 私の原因究明
 洞爺丸海難審判
 審判庁の原因究明-第一審
 審判庁の原因究明-第二審
 裁決は生き残った

第六章 甦る青函連絡船  再建の道のり
 連絡船の近代化
 親しまれ信頼される連絡船

エピローグ  四〇年目の洞爺丸
 節目の洞爺丸
 あれから三〇年
 洞爺丸の遺した文芸作品
 連絡船船員の作家


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