著者名: | 成定 竜一 著 |
ISBN: | 978-4-425-76301-6 |
発行年月日: | 2025/05/28 |
サイズ/頁数: | 四六判 252頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥1,980円(税込) |
通勤通学の多い短距離・昼行路線から長距離・夜行路線まで、年間輸送人員が約1億人と、実は航空国内線に匹敵する高速バス事業。本書は、業界や法令の変遷、市場(利用者像)の理解を踏まえ、最新の法令改正への対応やウェブマーケティングの活用、インバウンドの取り込みなど、直面する課題や求められる戦略を解説する。
【はじめに】
筆者が高速バスの事業と初めて出会ったのは、大学生の時、新宿の高速バスターミナルでアルバイトを始めた時であった。
その時、二つほど、不思議に感じたことがあった。
一つ目は、あくまで当時の話だが、バスターミナルで働く先輩たちも、乗り入れてくるバスの乗務員も、接客態度が「いまひとつ」の人が多かった点だ。「お客さーん、もう出るよ。何してるの?
急いで!」 高速バスは鉄道や航空に対して後発の挑戦者なのだから、乗客の方を向いて丁寧に仕事をすればもっと伸びるのではないか、と感じたのを覚えている。
もう一つは、時間帯により忙しさの波が大きいことだ。アルバイトの「早番」は比較的ヒマで、「遅番」は忙しかった。新宿のバスターミナルは、首都圏の人が地方に行くために利用するはずの午前中の便は乗車率が低い。一方、夕方になると甲州(山梨県)弁や信州(長野県)弁で埋まる。出張やコンサート、ショッピングなどの用件で東京を訪れた山梨や長野在住の人たちが、高速バスで戻っていくのだ。
この二つの疑問については、バス業界の仕組みを理解してくることで、その背景がわかってきた。
まず、当時、国から高速バスの事業免許を受けることができたのは、大手私鉄系、JR 系など老舗のバス事業者だけだった。高速バスは、事業としてみれば確かに後発の挑戦者ではあるが、運行する企業は、その挑戦を受け止める鉄道系の事業者たちだった。
また、老舗バス事業者の中でも、特に地方部の会社は、江戸時代の「藩」を思わせるエリアごとにおおむね1 社ずつ、バスやタクシーといった交通事業からスーパーマーケットなどの小売業、不動産、観光といった生活関連産業を幅広く手掛ける「地元の名士」企業だった。そういう会社が運行しているのだから、高速バスは地方部ではよく知られており、大都市への足として意外なほどシェアを持っていた。むろん大手私鉄系など大都市の事業者も、自社の事業エリア(おおむね親会社にあたる大手私鉄の沿線)での影響力は相当なものだが、私鉄沿線という「線」に過ぎず、首都圏や京阪神という「面」での存在感は小さい。
見方を変えれば、大都市部では高速バスは大きな「伸びしろ」が残っている、とも言えた。
これに気づいたとき、大学の退屈なマーケティング論の講義で出てきた「セグメンテーション」という用語が急に命を持ち始めた。高速バスの需要を大都市部と地方部にセグメンテーションする(分ける)だけで、大都市部では「まだ知られていないので、いかに認知度を向上させるか」、地方部では「既にシェアがあるので、いかに末永く使い続けてもらうか」という、採るべき戦略が見えてくる。
筆者は現在、主に高速バス事業者を対象とするコンサルティング会社を経営しているが、その中身のほとんどは、学生バイト時代の経験に学んだものである。
本書は、高速バスの歴史や制度、法令などを踏まえつつ、高速バスの市場や事業の概要を紹介するものであるが、バス事業者や関連の事業に携わる方々が、高速バス事業の概要を振り返り、また今後も成長させていくための参考、指針となる内容にもなっている。
高速バスには、通勤通学に使われる短距離路線から、観光地に向かう路線、長距離の夜行路線などさまざまなジャンルがあるが、総じて高速バスに興味を持つ方々、高速バス事業に携わる方々が高速バスの市場や事業の全体像を理解し、今後とも同事業を盛り立てるうえで本書が参考となり続けることを願っている。
2025年4月
成定 竜一
※人物の所属先、肩書は当時のものです。
※ 社名変更が続いた場合やグループ内でバス事業を複数社に分社化している
場合など、一部、バス事業者名を通称で記載している場合があります。
【目次】
第1章 高速バスターミナルの新設
1.1 「バスターミナル東京八重洲」の開業
1.2 高速バスターミナル建設が相次ぐ理由
1.3 多様な高速バス路線
第2章 高速バスとは
2.1 バス事業の分類と高速バスの定義
第3章 高速バスの成長
3.1 高速バス事業の概要
3.2 高速バス誕生から「共同運行」システム定着まで
⑴ 乗合バスの事業免許制度と初期の高速バス事業者
⑵ 「共同運行」制度の誕生
⑶ 共同運行制度のメリットと「高速バスブーム」
⑷ 共同運行の限界と需給調整規制の撤廃
第4章 高速ツアーバス
4.1 高速ツアーバスの誕生と成長
⑴ バスツアーと高速バスの狭間
⑵ 高速ツアーバスの誕生
⑶ 「ニッチ商品」だった高速ツアーバス
⑷ ウェブマーケティング活用による成長
⑸ 高速乗合バスと高速ツアーバスの相違点
4.2 業界を二分した「ツアーバス問題」
⑴ ツアーバス問題と高速ツアーバス連絡協議会
⑵ バス事業のあり方検討会
⑶ 最終報告書
⑷ 「関越道事故」と高速ツアーバスの乗合移行
⑸ 高速ツアーバス終焉とその影響、その後
第5章 高速バスの路線と事業者
5.1 高速バスの路線の類型
⑴ 路線の長さによる分類
⑵ 乗務員の勤務形態による分類
⑶ 車両の種類による分類
5.2 高速バスの市場の類型
5.3 高速バス運行事業者の類型
⑴ 地方の乗合バス事業者―目立たない主役―
⑵ 大手私鉄系事業者―不発に終わった「沿線密着」―
⑶ JR 系事業者―地方事業者の実力を「影絵写し」―
⑷ 既存の高速バス「専業者」―新旧事業者で別れた明暗―
⑸ 高速ツアーバスからの移行事業者
第6章 高速バスが直面する課題
6.1 高速バスを巡る環境変化
⑴ 輸送人員の成長が止まった
⑵ 人口減少の影響
⑶ 乗務員不足の影響
⑷ 停留所不足の問題
6.2 レベニュー・マネジメント(ダイナミック・プライシング)
⑴ 航空やホテル業界で先行するレベニュー・マネジメント
⑵ 「幅運賃」制度の導入
⑶ 「幅運賃」制度のポイント
6.3 乗務員不足への対応
⑴ 国全体の人口減少の影響
⑵ バス乗務員職に固有の理由
⑶ 「バスドライバー nav(i どらなび)」の取組み
6.4 相次ぐバスターミナル新設計画
⑴ バスターミナル新設計画の概要
⑵ バスターミナル事業計画の難しさ
⑶ バスターミナル施設設計の難しさ
第7章 「地方の人の都市への足」市場
7.1 高速バスの「3 つの市場」
⑴ 地方の人の都市への足 ―第一の市場
⑵ 第一の市場「地方の人の都市への足」の展望
第8章 大都市どうしを結ぶ市場
8.1 高速バスの大都市間路線
⑴ 「遅れてきた高速バス市場」
⑵ 商品の多様性
⑶ 運賃の多様性
⑷ ブランド化
8.2 「第二の市場」の「勝ちパターン」
⑴ ダイナミック・プライシング
⑵ ウェブマーケティング戦略
⑶ ブランド化戦略
第9章 観光客の市場
9.1 高速バスの個人観光利用
⑴ 高速バスと観光「近くて遠い関係」
⑵ キーワード1「想起率不足」
⑶ キーワード2「旅行形態の変化」
9.2 「第三の市場」の「勝ちパターン」
⑴ 「観光産業の一員」という自覚
⑵ FIT の取り込み
9.3 「団体から個人へ」旅行形態のシフト
第10章 バス業界と高速バスの今後
10.1 バス業界の現状と今後
⑴ 地方部の路線バス事業
⑵ 大都市周辺の路線バス事業
⑶ 貸切バス事業
10.2 変化する高速バスの市場・事業環境
⑴ 分岐点を迎えた高速バス事業
⑵ 追い風となりうる環境変化も
⑶ 事業者のモチベーションしだい
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