『雷の疑問56』【神の怒り?五穀豊穣の印?ダイナミックな自然現象のヒミツ】 【section4:「雷」から身を守る、モノを守る】

『雷の疑問56』解説の第4回です。前回は、各地の雷の特徴や、他の自然現象との関係について確認してきました。雷の落ちる原理がわかれば、その土地でなぜ雷が多いのか、またはまったく落ちないのか、納得できるのではないでしょうか。

今回はぐっと実践的に、雷から身を守ったり、モノを守ったりする方法についてみていきます。雷の落ちやすい場所はどこ?もし雷に打たれてしまったらどうなるの?車や飛行機に乗っているときに雷が落ちても安全なの?インフラの雷対策はどうなってる?電化製品にはどんな対策を施せばいい?熟読すれば、明日から少しゴロゴロが怖くなくなるかもしれません。

【落雷しやすい場所と避難:いつどこへ逃げればいいの?】

落雷しやすい場所は、避雷針の形状をみてもわかる通り「高くて尖っているところ」です。落雷は雷雲と地面の間にできる電界(電気的な傾斜)があるレベルを超えたときに発生します。

雷雲から伸びたリーダは、進みやすい経路を探しながら地上に向かってきます。このとき地上の「高くて尖ったところ」からは「お迎えリーダ」が伸びています。これらが繋がると、雷が落ちます。

雷に打たれたくなければ、低く平らに、できるだけ目立たないように隠れる必要がありますが、「高くて尖った」というのは、あくまで周囲との比較の問題ですし、一番高くて一番尖ったものに必ず落雷するわけでもありません。

雷鳴が聞こえる範囲は約10km、雷雲の大きさも約10kmです。ということは、雷鳴が聞こえたら、その雷雲がすぐ頭上にあってもおかしくないわけです。雷鳴が聞こえたら、すぐ頑丈な建物の中などに避難するようにしてください。

もしすぐに逃げられる場所がなかったらどうしましょう?実は、頑丈な建物の中と同じくらい安全なのは車の中なのです。送電線や配電線があれば、多くの場合落雷対策が施されているので比較的安全です。

車も送配電線も近くにない場合は、より危険です。樹木等の高い物体からは直ちに距離を置いてください。一旦高いものに落ちた雷が別のものに飛び移る「側撃」を受ける可能性があるのです。

落雷の危険が迫った場合は、長いものは体から離し、姿勢を低くしてください。間近に落雷があると大きな音が発生するので、耳もふさぐのが安全です。

【建物と車と飛行機:どこが安全?】

接地された金属(導体)に囲まれた領域の中には、外部で生じた電気的な影響は及びません。つまり、車を雷が直撃したとしても、電流が直接流れる部分に触れていなければ安全です。しかし、現在の車は電子機器を多く搭載しており、それへの影響があることは考えられます。車内は屋外よりははるかに安全ですが、運転は一旦中止して安全な場所に停車するのが賢明でしょう。

鉄筋コンクリート増の建築物も以上の理由から、電流の流れる場所に直接触れていない限りは安全です。木造建築物も、丈夫な構造の建物で、壁から離れていれば比較的安全です。壁がなかったり、壁から十分な距離が取れなかったりする小屋やテントなどはかえって危険です。

確率は大変低いですが、飛行機にも落雷します。雷対策は施されているので墜落はしませんが、機体の表面に小さな穴が開いたり、金属部分が溶けたりと、無傷で済まないことがあります。

飛行機の被雷は、①飛行機から雷が発生する、②飛行機とは別の場所で発生した雷のリーダが飛行機までたどり着いて飛行機が被雷する、の2種類があります。

【雷に打たれたら?症状と被害者数】

人体は電流を流しやすい良導体です。雷に打たれてしまったらどんな症状が現れるのでしょう?

Q:雷に打たれたらどうなるの?

A:人体への落雷で生じる雷電流は3つのステージで表されます。致死的かそうでないかは、体内を流れる電流の量で決まります。

ステージ1:体内電流

ステージ2:体内電流+部分沿面放電(体表を電流が流れ、皮膚に「電紋」が生じる)。意識喪失、痺れ、麻痺、痛み、運動障害。電紋が現れる場合は致死レベルの体内電流が流れることが多い(呼吸停止・心肺停止)

ステージ3:沿面火花放電(東部から地表まで連続する)。電流の大半が体内でなく人体の表面を流れれば、助かる場合がある

応急手当は、他の場合と同様です。続く落雷の危険がなければ、すぐに救急を要請し、呼吸や脈拍を調べて必要であれば心肺蘇生法を施します。

日本での落雷事故の件数は2009年まで警察白書で発表されていました。2009年までの25年で、落雷による年間の死傷者数は平均で死亡4.6人、負傷14.9人でした。その前25年より明らかに減少しているので、雷対策により死傷者数は減っていると考えられます。

一方、雷による被害額は拡大傾向にあります。オフィスや家庭に電子機器が普及し複雑化したこと、停電や電圧変動等電源供給への障害が大きいこと等が原因として考えられます。高品質の電源供給を必要とする製造現場では、一瞬の電源喪失や電圧低下が命取りになるのです。

【雷サージって何?】

雷サージとは、雷によって発生する電力線や通信線、あるいは電気・電子機器に瞬間的に生じる異常な高電圧や大電流のことです。最近の電子機器は雷サージに対してより脆弱になっていますが、様々な対策に加え、通信のワイヤレス化により、リスク低減も進んでいます。

・直接雷サージ:雷が電線に直接落雷。大きな被害を及ぼす

・誘導雷サージ:電線が直接落雷を受けなくても、リターンストロークの際に放電路を流れる電流による電磁界効果により周囲の電線に発生する雷サージ

・逆流雷サージ:近隣への落雷エネルギーが地中と接地戦を通して周辺に伝わる

【雷対策のいろいろ:インフラから家庭まで】

雷対策として最初に思い浮かぶのは、避雷針でしょう。Q&Aをご紹介します。

Q:避雷針の仕組みや効果は?

A:避雷針は、落雷被害を防止する目的で建物などの最も高い箇所に設置される設備で、建造物の高さが20mを超える場合は法律で設置が義務付けられています。最も一般的なのは、フランクリンロッドと呼ばれる先端が細い金属の棒です。

その形状によって「お迎えリーダ」を発生しやすくし、雷を誘導して受け、他に漏らすことなく大地へ逃がす働きをしています。保護できるとされる範囲は、避雷針の先端を頂点とし、鉛直線と45°の角度をなす円錐形の範囲内です、

電力・通信・鉄道などの雷対策は、大きく2つに分けることができます。①雷を受けないための対策、②雷を受けても障害が発生しないための対策、です。

①避雷針、架空地線など。架空地線は、送配電用の架空線よりさらに高いところに架設され、雷を先に受けて大地へ逃がすもの。

②避雷器など。避雷器は、雷サージによる高電圧を、そこにつながる電気設備や機器の耐電圧範囲内に制限する。一定値を超える過電圧を大地に逃がし、サージ終焉後には大地との確実な絶縁を回復する。

特定の場所で停電が発生した場合も、停電範囲を小さく短時間にすることも大切です。送配電網の冗長化による複数のルート確保や故障個所の早期検出と切り離し、特定後の迅速な修理回復などが行われています。

家庭やオフィスにおける雷対策としては、雷発生時にはコードやケーブルをすべて抜いてしまうというのが最も効果的な方法です。しかし、10km程度離れた場所にも誘導雷サージによる被害が及ぶことがあるので、対策しきれるものではありません。そこで、家庭や小規模オフィスで使える誘導雷サージ対策品として、SPDや耐雷トランスが挙げられます。いずれも、避雷器によく似た機能を有しています。

また、パソコンのバックアップを頻繁に行う、UPS(無停電電源装置)を導入する等も有効な対策といえます。

今回は、雷から身を守る方法について解説しました。このような技術は、昔からの被害とその対策の積み重ねでできてきたものです。続くセクション5では、現在の雷に関する様々な技術をご紹介します。雷の発生予測、観測方法、雷を「利用」したり狙った場所に落としたりする方法等について解説します。

未だ解明されていない謎は残っていますが、人類は雷を恐れながら向き合ってきたのです。