コラム

2022年4月19日  

小さな藻の大きな役割!『ミドリムシの仲間がつくる地球環境と健康』

小さな藻の大きな役割!『ミドリムシの仲間がつくる地球環境と健康』
春になって、色々な場所に緑が出始めました。水中も例外ではなく、池や川、ちょっとした水たまりや田んぼに張られた水の中にも水草や藻の姿が見えます。こうした場所では、目に見えるものだけではなく、微細な藻類も暮らしています。小さな藻類の中の、単細胞生物を「マイクロアルジェ」と呼びます。以前「クロレラ」のブームがありましたが、これもその一種です。
クロレラがブームになったのは、健康によいとされたからです。今もその健康効果を期待したサプリメント等が販売されています。少し前、同じような健康効果を期待できるマイクロアルジェとして新たに注目されたのが「ユーグレナ(ミドリムシ)」です。
これらマイクロアルジェには健康効果だけでなく、バイオ燃料、バイオマテリアルとしても期待が集まり、数多くの研究が行われています。
マイクロアルジェが生育するのは、実は水中だけではありません。一見コケに見えるイシクラゲや、中国料理で使われる髪菜のように、陸上の乾燥した環境で生きるものもいます。また、他の生物と共生するものもいます。過酷なものを含む多彩な環境で生きられること、様々な有効成分を含むこと、光合成を行って酸素を作れること、これらの理由から、人間の健康以外にも様々な利用法が考えられます。
今回ご紹介する『ミドリムシの仲間がつくる地球環境と健康』では、微細藻類を地球環境改善と人間の健康に役立てようと長年研究を続けてきた著者が、その研究成果と世界の様々な研究事例を紹介しながら、マイクロアルジェの世界をご案内します。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『ミドリムシの仲間がつくる地球環境と健康 ーシアノバクテリア・緑藻・ユーグレナのパワー ー』はこんな方におすすめ!

  • 藻類に興味のある方
  • 環境、健康に関心のある方
  • バイオマテリアルに関心のある方

『ミドリムシの仲間がつくる地球環境と健康 ーシアノバクテリア・緑藻・ユーグレナのパワー ー』から抜粋して5つご紹介

『ミドリムシの仲間がつくる地球環境と健康』からいくつか抜粋してご紹介します。最初に地球誕生から生命誕生を経て、私たちが暮らせる環境ができるまでに微細藻類が果たした役割、マイクロアルジェという生き物とその仲間を紹介します。その後工業、医療、宇宙開発等、様々な利用法を解説します。中学生くらいから読めるよう、イラストも用いてわかりやすく解説しています。

他の生物と助け合って進化する

24億年前、水と二酸化炭素を使って光合成を行い、酸素を生成する真正細菌、シアノバクテリアが誕生しました。このことによって地球は酸素に満ちた星になりました。またこの酸素が鉄イオンと結合し、酸化鉄となって固体化したことで、のちの人間文明は鉄を得やすくなったのです。

また、細胞核をもたない原核生物の古細菌にシアノバクテリアなどの真正細菌が細胞内共生したことで、細胞内に核をもつ真核生物が誕生したといわれています。
シアノバクテリア自身はほとんど姿を変えませんでしたが、進化と無縁であったということではありません。むしろ、積極的に進化に貢献した種であるといえます。その進化を「細胞内共生」といいます。

ゾウリムシという単細胞性の生物の中に、緑色をしたミドリゾウリムシという種がいます。 細胞の中に緑色のクロレラが生きているのです。ミドリゾウリムシはクロレラに安全と移動を提供し、クロレラは有機物を自分では作れないゾウリムシに光合成で作った有機物を提供しています。これを「細胞内共生」といいます。

細胞内に核膜を持たないシアノバクテリアと、核をもった真核生物との細胞内共生によって、多種多様なマイクロアルジェが誕生しました。シアノバクテリアが原生生物の細胞内に取り込まれ、定着して「葉緑体(色素体)」という細胞小器官になったと考えられています。それまで自分でエネルギーを生産できなかった原生生物が、光合成ができるマイクロアルジェへと進化したのです。
多種多様なマイクロアルジェがいることは 「細胞内共生」という現象が頻繁に起こったことを意味しています。

葉緑素の元は体内に取り込まれた別の生き物だったのですね。植物と動物の境界線は思ったよりも緩いものなのではと思ってしまいます。現在では電子顕微鏡の発達によって、葉緑素のもとがシアノバクテリアなのか、それとも緑藻類などの真核生物なのかどうかも判別できるようになっています。

ユーグレナ(ミドリムシ)

クロレラに代わって,現在わが国で最も知られているマイクロアルジェがユーグレナです。
ユーグレナは単細胞性の鞭毛虫です。光合成能をもつユーグレナは海水域で赤潮の原因になったりする種もいますが、世界中の水田や湖沼など様々な淡水域で生育しています。緑藻を食べるため、富栄養化して緑藻が増えた水環境で多くみられます。また、汚水中や沼地などにも生育していることがあります。このようにユーグレナは生命力が強く、他のマイクロアルジェが生育できない強い光や強酸(pH4 以下) の中でも生育できるのです。
動物と植物の両方の特徴をもつ微生物の例として紹介されているとおり、光合成による独立栄養と他者を捕食するなどの従属栄養の両方で生育することが可能です。
ユーグレナは自由遊泳性で、細胞の外側に殻をもっていません。2本の鞭毛をもっていますが、外からは1本に見えます。身体の形や大きさにはかなりの幅があります。光反応運動に関係する眼点という赤色の細胞内小器官をもっています。

ユーグレナの生体成分や栄養価が研究されはじめたのは1970年代後半からです。特徴的なのは、β-1,3-グルカンという多糖類です。その生命力の強さから大量栽培も容易と考えられ、将来有望なマイクロアルジェです。

本書のタイトルにも登場するミドリムシは、光合成をしながら自分で餌もとります。遠い昔、理科の実験で使うために池の水を汲んだような覚えがありますが、当時も虫なの?植物なの?と混乱したものです。

グリーンバイオ領域:放射性物質除染の試み

肥料、土壌改良剤、生物農薬、家畜飼料や魚の餌などの一次産業への利用や、二酸化炭素の固定や大気・水質汚染の改善、金属イオンの除去・放射性物質の除染といった環境保全にもマイクロアルジェの活用が期待されます。

福島第一原子力発電所事故後、放射性セシウムに汚染された土壌の除染について多くの研究が行われています。セシウムは土壌表面にとどまる性質があります。放射性セシウムの一つ、セシウム137の半減期は約30年です。

そこで、土壌表面に生育する陸生のイシクラゲを利用した生物除染の研究が行われています。イシクラゲは毒性がないこと、さらに人が浴びれば即死するような高放射線量の下でも生育できることから、生物除染に適していると期待されています。

実験により、イシクラゲが放射性セシウムを吸収・蓄積し、イシクラゲがまかれた土壌では放射能濃度が低下していることが報告されました。イシクラゲによって放射性物質が除染された可能性が示されました。

イシクラゲは乾燥させると大きさが20分の1になるので、放射性セシウムをイシクラゲに吸着して乾燥すれば、現在の広大な除染土壌の中間貯蔵地を減らすことができるのではないかと期待されています。

環境保全分野の別の利用では海水中の二酸化炭素排出削減の削減や、排気ガス中と似た環境下で生きる紅藻類のマイクロアルジェを用いた大気汚染対策、マイクロアルジェを用いた水質浄化などがあります。
工業分野では、バイオ燃料や、バイオプラスチックの原料としての研究も進められています。

イシクラゲ/髪菜(ファーツァイ)

イシクラゲと髪菜は、乾燥に非常に強い陸生のシアノバクテリアです。100年以上の乾燥状態から培養液に浸したところ増殖し始めたという記録があります。

1.イシクラゲの多様な生理作用
乾燥したイシクラゲには高い保水力のある二糖類のトレハロースが蓄積しており, これが乾燥耐性に深く関わっていると考えられます。
イシクラゲの成分の55%は糖質で、その大部分が多糖類です。この多糖類に、強い抗酸化作用があることが報告されています。
マウスでの実験結果により、血中コレステロール値の上昇抑制や、食中毒菌リステリア菌の増殖抑制等に効果がある可能性が考えられています。
ヒトのがん細胞を用いた研究でも、がん細胞の増殖抑制がみられました。これはイシクラゲ多糖類ががん細胞のアポトーシスを誘導したことによるものだと判明しています。

2.安全な日焼け止めから白血病治療まで
海産動物や藻類、 マイクロアルジェ、菌類が作りだすマイコスポリンや、マイコスポリンの構造によく似たマイコスポリン様アミノ酸(マース)には優れた紫外線吸収作用があります。マースは抽出が難しく、まだ実用化されていません。イシクラゲにはこのマースがたくさん含まれています。

またイシクラゲには、スキトネミンと還元型スキトネミンという物質が含まれており、両者とも抗酸化作用が認められています。還元型スキトネミンは高い細胞死誘導作用をもち、これを投与するとがんの細胞死が誘導され増殖を抑制することができます。

さらに新規物質も発見されています。それを単離精製したノストシオノンは、抗酸化作用の他アクネ菌への抗菌作用、ヒト白血病細胞などのがん細胞増殖抑制作用をもっています。
多彩な生理作用をもつイシクラゲの研究は、現在世界中で精力的に行われています。

髪菜は中国料理で出てくる珍しい食べ物という認識でしたが、乾燥状態で100年が経過しても復活するとは驚きました。名前の通り一見髪の毛のようなこの陸上藻を不老長寿の食べ物として尊重した中国の人々は、その健康効果を、食卓で料理として食べるうちに確信したのでしょう。

宇宙開発とマイクロアルジェ

宇宙旅行が現実味を帯びてきた今、宇宙で暮らすのもそう遠くないように思えます。しかし、宇宙で暮らすためには多くの課題があります。最初に解決しなくてはならないのが、酸素と食糧と水です。そこでマイクロアルジェが大きな役割を果たすと期待できます。

1.スペースコロニーで暮らす
宇宙空間での生活は、閉鎖系の施設を建設することによって実現可能です。太陽系を離れない限り、マイクロアルジェは光合成によって酸素を放出してくれます。二酸化炭素は人間が排出します。栄養素として窒素が必要ですが、これも人間が排泄します。
食糧については、マイクロアルジェはタンパク質や脂質、糖質、各種ビタミンなどを作ってくれます。
閉鎖された環境下では、水の総量はほとんど変化しません。水をリサイクルし、マイクロアルジェの栽培に利用します。
マイクロアルジェは、高等植物のように重力の影響を考える必要がないため、宇宙での利用に適しています。

2.テラフォーミング
テラフォーミングとは、惑星そのものを地球と同じような環境にしようという考え方です。
地球が誕生した時は、この地球も火星や金星と同じような火山ガス(二酸化炭素ガス)の充満した星でした。その地球は24億年前にマイクロアルジェが誕生して光合成を開始し、長い時間をかけて生命あふれる星となりました。
マイクロアルジェには、陸生藻や気生藻といった少しの水分でも生きられるものがいます。それらを惑星で繁茂させることにより、最終的に数百年という短期間で地球と同じ環境の星にすることを目指します。
しかし、重力と土壌の問題が残ります。テラフォーミングを行っても、作物の育つ土は作れないのです。ここでもマイクロアルジェの働きが期待されています。

宇宙への滞在が旅行商品として売られる時代です。宇宙生活で必要な資源を地球からの輸送に頼るのではなく、こうした藻を用いてその場で作る時代も近づいているのかもしれません。

『ミドリムシの仲間がつくる地球環境と健康 ーシアノバクテリア・緑藻・ユーグレナのパワー ー』内容紹介まとめ

地球を生命が溢れる星に作り上げた立役者、マイクロアルジェ。その生態と種類を紹介し、この先地球環境と人類が生き延びるためにどのような利用ができるか、様々な分野から研究成果を踏まえながら考察します。

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