コラム

2022年2月2日  

毒はどこからやってくる?『フグはフグ毒をつくらない』

毒はどこからやってくる?『フグはフグ毒をつくらない』
フグ、お好きですか?盛りつけも美しく歯応えが最高なふぐ刺し、淡白な中にもしっかりとした味わいのあるふぐちり。一瞬ぎょっとしてしまいますが、卵巣のぬか漬け(石川県の名産です。ぜひお試しを!)もお酒に合います。まさに今が旬の、冬の味覚です。食べるのはそれほどではなくても、水族館などで見るおちょぼ口の姿にはなかなか愛嬌があります。
フグは毒のある魚としても有名ですが、近年天然物は減っていて、養殖が盛んです。実は養殖ものが増えるにつれて、フグの特徴である「毒」についても異変が起こってきました。養殖のフグは、一般的には毒をもたないのです。
養殖下で毒を失ってしまうということは、どういうことなのでしょうか。フグはどこからどのようにあの強力な毒を得ているのでしょう?
今回ご紹介する『フグはフグ毒をつくらない』は、フグ毒の源を追い、なぜフグが毒を持つのかを解明しようと試みます。フグにとって毒は武器や防具なのかもしれませんが、フグをなんとかして食べたい人間の食欲と探究心は、この毒の鎧をどこまで剥がせるのでしょうか。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『フグはフグ毒をつくらない ベルソーブックス036』はこんな方におすすめ!

  • フグ料理に興味のある方
  • 釣生物毒に興味のある方
  • 魚類・水生生物好きな方

『フグはフグ毒をつくらない ベルソーブックス036』から抜粋して5つご紹介

『フグはフグ毒をつくらない』からいくつか抜粋してご紹介します。文中に出てくる様々な中毒事例が、人間の(日本人の?)食にかける情熱の強さを伝えてくれます。研究が進めば、より安全においしいフグが食べられるようになりますね。

フグ毒をもつ生物

フグ毒をもっているのは、フグだけではありません。ツムギハゼ、イモリ、カエル、ヒョウモンダコ、ヒラムシ、ヒモムシ。ヤムシ、カブトガニの一部、スベスベマンジュウガニ、トゲモミジガイ、バイやボウシュウボラなどが、フグ毒をもっています。

これらの生物の中には、生息地域や時期の違いによって毒の有無があったり毒成分が違ったりするものがあります。養殖フグが無毒である傾向が強いことも考え合わせると、体内で毒を作るのではなく、食べ物から毒を得ている可能性が考えられます。

また、フグ毒をもつ海洋生物の腸内細菌を調べたところ、そこに存在したビブリオ・アルギノリティカス等のビブリオ属を中心に、フグ毒とその関連物質を作り出すものがあることがわかりました。
ではこれらの海洋細菌が腸内で生成したフグ毒によって、フグ毒をもつ生物は毒を得ているのでしょうか?しかし実験の結果、これらの細菌の作るフグ毒はごく微量ということがわかっており、海洋細菌によって毒化した魚も見つかっていません。

以上の結果から次に考えられるのは、食物連鎖による毒の濃縮・蓄積です。

1.海洋細菌が出したフグ毒や、フグ毒をもった生物の死骸が海底に残留する
2.デトリタスフィーダーがフグ毒を含む有機物を食べ、体内に毒を蓄積→フグ毒耐性生物がそれを食べさらに毒を蓄積し、生物濃縮によって毒が強まる
3.フグ毒をもつ生物が死ぬと、その死骸を小型巻貝等の「掃除屋」が食べたりして分解されて毒は海底泥土に戻る

しかしこの食物連鎖説でも、陸上生物におけるフグ毒の出どころなど、説明しきれないことが残っています。

スベスベマンジュウガニは毒ガニとして有名ですが、実は産地によって毒成分が違うそうです。沖縄のサンゴ礁に生息するものは麻痺性貝毒をもちますが、サンゴ礁から離れた場所で獲れるものはフグ毒をもっています。また徳島県では、季節によって2種類どちらの毒をもつかが変わるそうです。このことからも、毒は食物が原因であると推察されますね。

フグ毒中毒のメカニズム

フグ毒中毒の症状は、軽い場合は唇が痺れる程度です。しかし重くなるにつれて手足が麻痺して動けなくなり、呼吸ができなくなって窒息死します。フグ毒中毒では窒息死しない限り麻痺は回復し、後遺症もほとんど残りません。

フグ毒は神経毒のひとつで、神経や呼吸中枢を麻痺させます。フグ毒が細胞膜のNaチャンネルを阻害するからです。細胞が刺激を受けるとNaイオンが細胞内に流入し、刺激が次々に伝わっていきますが、フグ毒はNaイオンが細胞内に取り込まれることを物理的にブロックして刺激が伝わらないようにしてしまうのです。そのため、神経や筋肉は伝達ができなくなって麻痺してしまいます。しかし、時間経過とともにフグ毒は受容体から離れるため、組織は損傷を受けず後遺症が残らないのです。

「フグ毒にあたったら砂に埋める」という言い伝えがありますが、毒を抜くというよりは耐えて毒の効力がなくなるのを待つといった理由だったのでしょうか。一説によると、フグ毒中毒に伴って起こる血圧の低下を、砂に埋めて圧迫することで防ごうということのようです。

フグにとってフグ毒は必要か

釣り上げられたフグは、体を膨らませて威嚇をします。その際にヒガンフグなどの有毒種は、皮膚から毒を放出します。フグ毒をもつ生物にとって、毒の存在意義は何なのでしょう?

1.狩りに使う
ヒョウモンダコ、ヒモムシ等は、フグ毒は餌を捕まえる際に用います。獲物に毒を注入し、麻痺させてから食べるのです。

2.天敵から自分の身や卵を守る
フグはフグ毒を主に肝臓と卵巣に蓄積しますが、産卵時期には卵巣に移動させます。この高濃度のフグ毒が、卵を食べようとする天敵に対する防御になるのです。また、敵に出会って体を膨らませるときも。皮膚から毒を分泌しています。食べにくい形状になりつつ毒を出すことで、敵に避けてもらう作戦です。

3.免疫力の上昇、噛み合いの減少
毒のない養殖フグは免疫力も弱く、病気や寄生虫への抵抗力が低い傾向があります。またそうしたフグたちはストレスで互いに攻撃し合うことも多く、傷ができて商品価値が落ちてしまうこともあります。そこで、敢えて餌にフグ毒を混ぜて与え、毒をもたせてみたところ、成長率・生存率に改善がみられました。

毒のないハリセンボンがトゲを装備しているように、有毒酒のフグにとっては毒が身を守る盾のような役割を果たしていると考えられます。

フグは当然フグ毒への耐性が強いのですが、フグ毒に対して完全に無敵かというとそうでもなく。外部から処理能力を超えるフグ毒を投与されると死んでしまうそうです。強いフグ毒をもつヒラムシを捕食したフグが死んでしまった例があります。

養殖フグには毒がない

フグ毒の原因が食物連鎖であるならば、フグ毒が含まれていない餌で育てた養殖フグは無毒となります。養殖場で行った長年の調査においてもそれは裏付けられていますが、食品衛生法では養殖されたフグも天然フグ同様の規制を受けています。無毒のフグを養殖する試みとその結果をいくつか紹介します。

1.海面養殖
天然フグから採卵し孵化させた稚魚は、孵化後1週間は卵由来の毒をもちます。卵の栄養分を使い切り無毒化したところで、それ以降はフグ毒を含む餌を食べさせなければよいわけです。
フグ毒をもつ生物は海底に多いので、海底から10m離した生簀で養殖を行いました。その結果、無毒のフグが育ちました。

2.陸上養殖:開放性循環水槽方式
海に隣接した水槽に海水を引き入れ、濾過と殺菌を行います。循環させて使用した水が汚れたら排出します。この方法でも無毒化に成功し、現在日本各地のトラフグ養殖場の主流となっています。

3.陸上養殖:閉鎖性循環水槽方式
水を排出せず、特殊な濾過システムで水の汚れを除去し、失われた水分は淡水で補給します。餌も魚粉主体の人工飼料で、毒化リスクはほとんどありません。

4.陸上養殖:人工海水を使った養殖
地下水に塩分を加えた人工海水を用いて、海から完全に隔離された環境で養殖を行います。毒化リスクもなく、寄生虫や環境汚染物質の影響も防げます。

これらの技術で完全な無毒フグの安定生産が可能になっても、流通の段階で有毒のものと混じってしまう等の危険性が問題になります。無毒フグを安全に食べるためには、厳しいトレーサビリティの確立が必要です。

このフグは安全か?

日本では現在、22種のフグが食用として許可されています。それぞれ毒のある部位が違い、食べてよい部位が定められています。しかし中には見分けの難しい種類もあります。例えば全身に毒があり食用できないドクサバフグは無毒のサバフグに大変似ていて、日本や台湾、イタリアで事故が起きています。毒のあるなしをどうやって見分けたらよいのでしょうか?

1.見た目で判断
経験を積んだ玄人でも難しく、特に加工品だと見分けがつきません。

2.電気泳動法
(1)SDS-PAGE法:調べたいフグの筋肉から筋漿タンパク質・筋原タンパク質を抽出し、電気泳動によるタンパク質の移動パターンによってフグの種類を鑑別する
(2)Native IEF法:タンパク質の電荷がpHによって変化し、移動中に荷電が0になる点で停止して沈殿する性質を利用した鑑別法。加工品の見分けは難しい
(3)DNA法:種レベルにとどまらず個体レベルでの鑑別が可能なため、法医学等でしばしば用いられる

昔は目だけでフグの種類を見分けていたため、多くの事故が起こってきました。また、フグを調理してお客に出すためには免許が必要ですが、個人が自分自身で釣ったものを調理して食べることへの罰則等はありません。ふぐ調理師免許制度も地方自治体によってまちまちで、試験を行っていない県もあります。こうした制度のばらつきも、未だフグが危険な魚であり続ける原因になっています。

『フグはフグ毒をつくらない ベルソーブックス036』内容紹介まとめ

フグは毒がある魚ですが、すべて毒があるわけではありません。また毒のある種類も、隔離した養殖場で育てると、毒をもたないものが育ちます。フグの毒は、フグが自分の体内で作っているものではなさそうなのです。それではフグ毒はどこから来て、フグはどういったメカニズムでフグ毒を持てるのでしょう?
フグ毒をもつ生物を調査して毒の大本と体内に蓄積される仕組みを解明し、毒の作用やフグにとっての用途を解説します。また、無毒化フグ養殖を紹介し、その流通と調理法も提案します。

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