コラム

2022年1月19日  

地球の生きている証?怒れる山『火山』

地球の生きている証?怒れる山『火山』
1月15日、トンガの海底火山が大規模な噴火を起こしました。津波、インフラの崩壊等の甚大な被害が伝わってきています。しかし全貌は未だ掴みきれておらず、現地の方々の安否が気遣われています。また、昨年は日本でも小笠原諸島で海底火山が噴火し、大量の軽石が各地に漂着する原因となりました。現在東京国立博物館で行われている「ポンペイ展」でも、ヴェスヴィオ火山噴火の爪痕を展示物に見ることができます。
このような恐ろしい災害をもたらす火山は、地球のどんなメカニズムによって生まれ、噴火するのでしょう?日本をはじめとする環太平洋地域の国々は、海洋プレートが大陸プレートを巻き込みながら沈み込んでいる位置にあります。この条件において、火山ができるのです。日本は4つのプレートの境目に位置しますので、火山と地震とはずっと付き合い続けなければなりません。火山とともに暮らしていくには、適切な避難方法や、被害を減らす方法を知っておく必要があります。
今回ご紹介する『火山』は、防災コンサルタントの著者が、火山の発生メカニズムと噴火の仕組みをやさしく解説します。災害国ならではの、火山との付き合い方を学んでいきましょう。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『火山−噴火のしくみ・災害・身の守り方−』はこんな方におすすめ!

  • 火山に興味のある方
  • 登山をする方
  • 防災に関心の高い方

『火山−噴火のしくみ・災害・身の守り方−』から抜粋して7つご紹介

『火山』の中から、内容を何ヶ所か抜粋してご紹介したいと思います。本書の特徴のひとつは、過去の豊富な事例を用いて火山被害のタイプ分けや、当時の対応を解説しているところです。関心を持たれた方は、是非本書をお読みください。「過去の災害をしつこく思い出す」ことが、防災の心得のひとつであると著者は記しています。

生きている地球の恵み

大陸は今でも移動を続けており、大西洋が広がり続けています。アフリカの東半分では南北に伸びる大地溝帯が広がっていて、アフリカプレートにはヒビが入っている状態です。いずれはアフリカ東部がアフリカ大陸から分離することが考えられます。地球は内部が熱い惑星で、核やマントルが対流する、生きている星です。地震や火山の存在は、その証なのです。

地球の地下に対流がなかったら、地球の核内で起きている鉄(電気を通す物質)の運動による磁場の発生もなくなるため、太陽からの有害な宇宙線が直接地表に降り注ぎ、地球は生命の生きていけない星となっていたでしょう。また、地球が生きていることによって、金、銀、銅などの地球深くにある質量の大きな物質が地表近くの特定の場所に集められ、有用に使われるようになったのです。

私たちが地球内部の物質の対流から恩恵を受けている限り、地震や火山とも付き合っていかなければならないのです。

火山噴火や地震は小さな人間たちにとっては災害ですが、地球にとってはプレートとマントルの動きに伴って必然的に起こる現象です。本書でも触れられていますが、地球内部で起こっているダイナミックな物質移動が、磁場の発生によって宇宙線を退けるほか、温泉や鉱物資源をもたらしてくれるという恩恵もあるのです。

火山と巨大地震

世界には約1500の活火山(海嶺付近の深い海の底にあるものを除く)があり、その多くは陸のプレートと海のプレートの境界付近に分布しています。海のプレートが陸のプレートの下に潜り込んでいくと、海洋プレートは水分を多く含んでいるため、沈み込む途中で比較的低い圧力でも溶けてマグマが形成されます。沈み込んだ海洋プレートは溶解してマグマとなり、火山の噴火が起こります。地下の深部で発生したマグマが地表に噴出する現象による災害が火山災害です。日本付近は北アメリカプレートの下に太平洋プレートが潜り込んで日本海溝が、ユーラシアプレートの下にフィリピン海プレートが潜り込んで南海トラフが発達しています。

このため、日本には火山が多いのです。日本には、世界の活火山の7%にあたる110の活火山があります。世界でマグニチュード3以上の地震は1年間に14万回以上発生していますが、日本及びその付近で起こっているのは3%程度です。日本は地震国である以上に、火山国なのです。

日本列島が載っている陸側のプレートの先端は海洋プレートに巻き込まれて沈みますが、限界に達すると陸側のプレートが跳ね上がります。このとき巨大地震が起こります。火山の発生と大地震の発生は、同じようなプレートの仕組みが出処になっているのです。

日本列島は、こんな細長い小さな国土がプレートの境目に乗っているという、ある意味厄介な配置です。そのため、地震も火山も多いのです。日本国内でプレートの動きを最も実感できる場所は、伊豆半島です。伊豆半島は2000万年前、本州から1500kmも離れた海底火山でした。この海底火山が噴火を繰り返しながらフィリピン海プレートに載って接近し、本州に衝突して伊豆半島になったのです。

火山災害の種類

火山災害の種類としては、大きな噴石や火砕流、融雪型火山泥流、溶岩流、小さな噴石や火山灰、火山ガス、土石流や泥流などがあります。

大きな噴石:爆発的な噴火によって火口から概ね2〜4kmの範囲に吹き飛ばされる直径約50cm以上の大きな岩石。風の影響を請けず、火口から弾道を描いて短時間で落下

火砕流:高温の火山灰や岩塊、空気や水蒸気が一体となって急速に山体を流下する現象。規模の大きな噴煙柱や溶岩ドームの崩壊などにより発生。流下速度は時速100km以上、温度は数百℃にも達する

融雪型火山泥流:積雪期の火山で、噴火に伴う熱によって斜面の雪が溶かされ、周辺の土砂や岩石を巻き込みながら高速で流下する

溶岩流:マグマが火口から噴出して高温の液体のまま地表を流れるもの。被害は大きいが、速度は比較的遅いので避難が可能

火山れき・火山灰:噴火により噴出した固形物のうち、2mm以上のものを火山れき、それ以下のものを火山灰と呼ぶ。火山灰はときには数百km以上運ばれて広範囲に降下・堆積し、社会に深刻な影響を及ぼす

火山ガス:マグマに溶けている水蒸気や二酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素などの様々な成分が気体となって放出されるもの。成分や濃度によっては人体に悪影響を及ぼす

土石流・泥流:噴火により噴出した岩石や火山灰が堆積したところへ雨が降ると発生しやすくなる

私が「火砕流」という言葉を知ったのは、1990年の雲仙普賢岳噴火がきっかけでした。大規模火砕流に巻き込まれ、報道陣や専門家ら43名が犠牲となりました。
また近年では、観光シーズンに水蒸気爆発による噴石が登山客を襲った2014年の御嶽山噴火の被害も大変大きなものでした。開けた場所だったため、身を守ることが難しかったのです。

火山の監視

火山があるのは、海嶺部分を除けば、海のプレートが陸のプレートに衝突して、下に沈み込んでいる場所です。プレートが単に衝突しているだけでは、火山は生まれないのです。

元々のマグマは二酸化ケイ素が少なく流動性が高い玄武岩質です。しかしマグマだまりに溜まる過程で周囲の岩石を溶かし、一部の鉱物が結晶となってマグマから除かれ、性質が変わります。二酸化ケイ素を多く含むようになると、流動性が悪くなり、爆発性も高まります。火山が噴火しそうなとき、マグマの二酸化ケイ素が多いかどうかは大きな問題です。二酸化ケイ素の多い粘り気のあるマグマは、突然爆発することがあるからです。

日本では、気象庁が気象のほかに地震や火山などの「地象」、海洋や湖沼などの「水象」も扱っています。気象災害を防ぐための組織が地震や火山の監視も同時に行うのは、自然災害が多くそのスパンの短い日本の特徴といえるでしょう。気象庁では110の活火山について監視活動を行っていますが、そのうち監視・観測体制の充実等が必要な火山として選定された47火山については、24時間体制で常時観測・監視しています。5段階の噴火警戒レベルを設定し、噴火警報、火口周辺警報、噴火予報を法被しています。

マグマの質によって、火山の形態、危険性、噴火予測のしやすさも変わります。マグマが地殻を押し上げるタイプの噴火は予兆を捉えやすく噴火までの時間的余裕もありますが、御嶽山で起こったような水蒸気爆発は、予知が難しいのです。その代わり大部分は規模が小さいのですが、噴火の起こる場所などの条件によっては大災害となることがあります。

火山の観測方法

振動観測と空振観測:振動観測は、地震計により火山及びその周辺で発生する微小な火山性地震や火山性微動をとらえる。空振観測は、噴火等に伴う空気の振動を観測する

遠望観測:夜間でも観測可能な高感度カメラ等により噴煙の状態や噴出物、火映などの発光現象、音響等を観測

地殻変動観測:傾斜計やGPS観測装置を使い、地下深部のマグマだまりの膨張や収縮といったマグマの活動等によって生じる地盤の傾斜変化や山体の膨張・収縮を観測

熱観測:火山周辺の地表面温度分析を赤外線熱映像装置で観測、噴気地帯の地表面温度をサーミスタ温度計を用いて観測

機上観測:ヘリコプターや航空機によって、火口内の温度分布や噴煙の状況、噴出物の分布を観測

火山ガス観測:二酸化硫黄はマグマの上昇によって放出量が増えるため、小型紫外線スペクトロメータを用いて測定

噴出物調査:噴火の規模や特徴を把握し、火山活動を評価するために必要だが、噴火後すぐに行う必要がある

磁気計測:溶岩に含まれる磁性体が温度変化によって磁気を帯びたり失ったりする性質を利用し、磁気を観測することによって火山内部の温度変化を調べる

火山の観測といっても、噴火の予兆を知るために行うもの、噴火そのものを観測するもの、噴火に伴って発生した噴出物を調べるものといくつもの段階と対象、それに適した道具があります。また、宇宙線を用いた火山内部の透視による噴火予知の試みも進んでいます。

火山防災の第一歩は情報

鹿児島のシンボルである桜島は、鹿児島市の市街地から錦江湾を挟んでわずか4kmの距離にあります。ひとたび噴火があれば、火山灰などの噴出物が広範囲に広がり、市民生活に影響を与えます。住民はテレビやラジオ、スマートフォン配信などで伝えられる風向情報と降灰予報を参考に、外出時のマスク着用等の対応を決めています。

火山に関する情報は気象庁のホームページから入手できます。火山に関する警報等の最新情報の他、火山についての解説や観測体制の解説もありますので、火山に関する情報を得るにはまず気象庁のホームページにアクセスし、「知識・情報」のコーナーを参照するのがよいでしょう。

また、火山灰に関する情報も大切です。気象庁は、噴火量の高さが3000m以上、または噴火レベルが3相当以上の噴火が発生した場合には、噴火から約6時間のうちに降灰が予測される地域やその量の予報を発表しています。

大気汚染予報でもうひとつ重要なのは、航空機向けの情報です。火山灰の中を飛行機が通過すると、機体に様々な損傷が生じ、事故の可能性があります。このため、世界の9か所に航空路火山灰情報センターが設けられ、火山灰情報を発表しています。航空機はこの情報をもとに、迂回や欠航を決めています。

鹿児島に旅行したとき、桜島があまりに近いことと、当地の人々の生活に火山灰情報が当たり前のように組み込まれていることに驚きました。灰が降ったときは車のフロントガラスが傷ついてしまうので、ワイパーの使い方にもコツがあるのだとか。また、火山灰専用の回収袋があり、降灰の多い季節には各家庭に配布されるそうです。

火山噴火時の知恵袋

火山災害への対策は、噴火している火山からどのくらい居住地が離れているかによって違います。地震と違って、マグマが狭い隙間から上昇してくるときは地震や微動等の前兆現象があり、基本的に不意打ちはありません。

火山近くに住む人は噴石や火砕流の危険があると情報があったら、迅速に避難しなければなりません。しかし津波よりは時間の余裕がありますので、各種情報を入手し、自治体が発令する避難指示等に従って落ち着いて行動してください。日頃からハザードマップ等を見て、居住地が火山によってどのような危険があるのか知っておくとよいでしょう。

火山灰については、火山から離れて住んでいる人でも注意が必要です。健康被害については、花粉やPM2.5対策と同様、マスクや空気清浄機などで対策しましょう。

火山に登山するときは、遭難や滑落に注意するとともに、火山についての最新情報が必要です。御嶽山の噴火被害をきっかけに、気象庁では登山者に噴火発生を迅速に伝える噴火速報の発表を開始しました。登山前には必ず山の情報を入手し、異変を感じたらすぐ下山することです。噴石が飛んできたら、すぐに避難小屋や岩場に避難してください。避難時にはヘルメット、防塵マスク、ゴーグルが必需品です。とっさのときにはリュックで頭を守るなどの判断も重要です。

普賢岳の災害では、住民が警戒情報に従って避難していた場所へ報道陣が立ち入り、そこで被災したケースがありました。自治体からの指示に従うとともに、普段から情報収集に務めることが的確な避難につながります。
火山はまた登山の名所であることも多く、そこで噴火が起こってしまった場合は装備の有無が生死を分けかねません。登ろうとしている山の情報をしっかり集め、万全の体制で臨みましょう。

『火山−噴火のしくみ・災害・身の守り方−』内容紹介まとめ

火砕流、噴石、火山灰、溶岩流……付近に限らず遠隔地まで被害を及ぼす火山。しかし火山国に暮らす私たちは、火山を正しく知り、被害を減らす方法を知っておく必要があります。日本のこれまでの噴火事例を参考にしつつ、火山と噴火の仕組み、防災・減災の方法を、防災コンサルタントの視点から解説します。

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