コラム

2016年1月14日  
北極読本

コラム4 国際極年

コラム4 国際極年
『北極読本ー歴史から自然科学、国際関係までー』までに掲載しているコラムを紹介。「コラム4 国際極年」
「国際極年」の構想
 1872年にフランツ・ヨセフ諸島を発見したオーストリア・ハンガリー海軍士官で探検家のカール・ワイプレヒト(国籍はドイツ)は、帰国後の1875年、グラーツで「北極調査の基本方針」の講演をし、極地での国際共同観測を提唱した。提案された観測計画は1879年、ローマでの国際気象学会およびハンブルグでの第一回国際極地会議において検討され、1880年、ベルンでの第二回国際極地会議で最初の「国際極地共同観測年(IPY、International PolarYear)」を1882年8月〜1883年8月に両極で行うことが決定された。
 1882年、IPY1(第一回国際極年)が実現した時、カール・ワイプレヒトはすでに故人であった。

【第一〜二回国際極年】
 IPY1では11か国が参加、北極域12か所、南極域2か所に観測所が設けられ、気象、地磁気の観測が行われた。当時の北極、南極域は未だ探検的領域で、北極域の観測ではオランダ隊はカラ海ディクソンを目指したが、観測船は航海途中で海氷にビセットされ、翌年沈没した。デンマーク隊はユーラシア大陸最北端のチェリュスキン岬を目指したが、同じくビセットされ、14か月間漂流した。アメリカ隊はエルズミア島の北端、レディ・フランクリン岬に越冬基地を設け、観測を行っていたが、1884年に引き揚げ(救援)船が基地に到着すると、当初25人であった観測隊員は6人しか生存していなかった。
 明治維新から間もない日本はIPY1には参加しなかったが、1883(明治16)年3月15日から東京赤坂(工部省用地)で地球磁気変動観測を開始した。
 第二回国際極年(IPY2)はIPY1の終了から50年後の1932年8月〜1933年9月に実施された。参加国は44に増え、北極圏27か所、南極圏3か所の観測所が設けられた。ただし、基地数には異なった情報がいくつかある。観測項目に極光、太陽現象、電波伝搬等が加えられた。
 第一次世界大戦中の1917年に建国されたソビエト連邦が最も熱心で、同国は北極圏に22か所の有人観測所を設け、最北の観測所はフランツ・ヨセフ諸島であった。
 わが国は当初から参加を表明し、最も北極的な気象が予想される地点として、富士山頂での通年観測を開始した。

【国際地球観測年(IPY3)】
 もともと第三回極年は第二回極年から50年後の1982〜1983年に行われる予定であったが、第二次世界大戦以降の科学の発展がめざましく、早期の開催が望まれ、1952(昭和27)年1月、国際学術連合会議(ICSU)の電離層合同委員会が、第三回極年を第二回極年から25年後の1957~1958年に「国際地球観測年(IGY)」として開催することを提唱した。これに国際測地学、地球物理学連合、国際天文学連合などが賛同した。ICSUは加入各国機関に対し、IGYへの参加と国内委員会の設置等を要望。また今回は観測域を極地に限らず、熱帯〜中緯度地域を含め、観測項目も地球物理学の全体にわたることが提案された。南極域の観測では南極大陸内陸部の地形、気候解明を主要な課題とした。参加国は67か国に及んだ。

【IGYに対する日本の対応】
 日本学術会議はICSUの要請に応え、地球科学関連の研究連絡委員会で検討され、1952年6月に第三回極年研究連絡委員会(研連委)の設置が議決された。
 ICSUは1952年10月、アムステルダムでの総会でIGY特別委員会を設置した。
 観測地が極地のみならず、赤道・中緯度を含め汎地球的となったので、1954(昭和29)年1月、研連委はGY研連委と改称し、わが国が担当する東経140度線観測において赤道付近で観測を行う準備のため、赤道分科会を設置した。学術会議は同年4月、政府に対し特別の予算措置を講じるよう要望、政府は翌年5月、文部省測地審議会が調整にあたり、予算措置を大蔵省と折衝することとなった。
こうした段階では南極観測への参加は想定されていなかった。その後、朝日新聞社が南極観測に参加することを提唱し、紆余曲折の後、日本学術会議に南極特別委員会が設置され、第一次日本南極地域観測隊(JARE)を1956年11月に南極に送り出し、東南極大陸、宗谷海岸(オングル島)に昭和基地を建設した。IGYの本観測期間には越冬観測隊を昭和基地に送り込めなかったが、以降、一時の観測中断期を挟んで南極観測は継続されている。
 第四回目の国際極年は2007〜2008年に実施されたが、各種の観測に関して国際共同観測が一般的になった時代を反映して静かな構えとなった。また、極年の開催隔年数がIGYで変則的となったので、名称は「IPY4」ではなく、「IPY 2007 – 2008」と呼ばれている。
(渡辺興亜)


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