ネット通販時代の宅配便 日本交通政策研究会研究双書29


978-4-425-92841-5
著者名:林 克彦・根本敏則 編著
ISBN:978-4-425-92841-5
発行年月日:2015/6/22
サイズ/頁数:A5判 248頁
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価格¥3,080円(税込)
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インターネットによる通信販売、すなわちネット通販の普及により、消費者の買い物は大きく変化した。実店舗に行かずとも、ネット空間のなかから、都合の良い方法で、あらゆる商品を購入することができる。購入された商品は、高度に発展した宅配便によって全国に確実に届けられ、主要都市向けであれば翌日配達も当然のこととなっている。さらに、激しい競争のなかで、当日配送などのサービス高度化も加速し、宅配便事業者・通販事業者にも新たな対応が求められている。本書は、こうした背景をベースにネット通販時代の宅配便の現状、課題などを、日本だけでなく、アメリカや中国など海外の事例を踏まえながら分析・解説する。ねっと通販とのリンクで、不況下でも成長を続ける宅配便市場について考察する意義ある一冊。

【まえがき】より インターネットによる通信販売、すなわちネット通販によって生活や流通が大きく変化している現代は、「ネット通販時代」といってよい。ネット通販の普及によって、消費者の買い物は大きく変わった。わざわざ買い物に出かけなくても、自分の都合のよい時間にネット通販サイトを検索し、価格やお届時間などを調べたうえで購入できる。あらゆる商品が出品されているネット空間のなかから、消費者は自分が欲しい商品を選ぶことができる。価格比較が容易なネット通販では激しい価格競争が繰り広げられており、消費者は、より安い価格で購入できる。ネット通販は、消費者に商品の価格低下と選択拡大という大きな便益をもたらしている。
 日本のネット通販市場規模は、すでに百貨店販売額を上回りコンビニエンスストアと同程度の8兆円の規模になるまで急成長した。ネット通販は急成長業態として捉えられ、多くの新規参入者を集めている。店舗を持つ小売業者もネット通販に取り組みはじめ、オムニチャネル戦略を繰り広げている。川上のメーカーも、直販チャネルとしてネット通販に取り組みはじめている。その普及とともに、流通の仕組みが急速に変化しはじめている。
 このネット通販の最大の課題は、商品の配送段階であるラストマイルといわれている。幸いにも日本では高度に発展した宅配便により、全国津々浦々に商品を確実に届けることができ、主要都市向けであれば翌日配達が当然のこととなっている。とはいえ、通販事業者の売上高物流コスト比率はきわめて高く、コスト削減が大きな課題となっている。さらに、激しい競争のなかで、当日配送等のサービス高度化が加速しており、新たな対応が求められている。
 ネット通販事業者は、大都市近郊に大型物流センターを設け在庫を保管し、注文があったらすぐ出荷できる体制を競って整えている。宅配便事業者は、巨大ターミナルを整備し昼夜分かたずトラックを運行し、集配チームで配達したり、コンビニを受渡場所にするなど、当日配達のための物流体制を構築しはじめている。このようにして、ネット通販時代の真っただ中で宅配便に革新が生じようとしている。
 以上のような認識のもと、公益社団法人日本交通政策研究会において「宅配便研究プロジェクト」が始まった。宅配便やネット通販に関する先行研究のサーベイや事例研究を続けていくうちに、ネット通販や宅配便には、ある程度共通するビジネスモデルがあるものの、各事業者がさまざまな興味深い取組みを行っていることがわかってきた。さらにこのビジネスモデルでは規模の経済やネットワークの経済が働きやすいため、激しい競争のなかで当日配達に対応した物流革新が生じていることが理解できた。
 この物流革新は、ネット通販だけでなく宅配便の利用者である多くの消費者や企業に利益をもたらそうとしている。一方、大型トラックや集配トラックの増大による環境問題が生じないように、幹線トラックの大型化や積載効率の向上、走行ルートの指定、市街地における集配車両から集配チームへの受渡効率化、コンビニ等での荷物受渡等を推進する必要性がある。消費者ニーズに応えたうえで環境に優しい宅配便を作り上げていくことが、社会的インフラとしての宅配便の使命である。
 本書はネット通販時代の宅配便について、さまざまな視点と切り口から行った研究をとりまとめたものである。本書の特色は、国際的な視点から日本だけでなく海外における実態分析に取り組んでいることと、これまでのネット通販や宅配便に関する既存研究を踏まえたうえで交通論や流通論、物流論の視点から詳細な分析を加えていることである。
 変化の激しい分野であるだけに、できるかぎり最新の動向を把握し分析するよう試みているが、それだけでなく変化の根底にある基本的な潮流を捉えるよう努めている。この分野を学ぶ大学生や研究者だけでなく、ネット通販や宅配便に興味を持つ社会人にとっても、有益な書になると期待している。
 本書は、全体を通じた分析の視点となる第1 部、主要国におけるネット通販と宅配便の実態を分析した第2部、ネット通販と宅配便について理論・実証分析を加えた第3 部の3部構成となっている。各章は、各部のなかで以下のような構成となっている。各章は各執筆者の責任による論文形式となっているものの、著作物として統一性を図るため、節項目立てから執筆内容、表記に至るまで擦り合わせを行った。執筆者一同にはひとかたならぬご協力をいただいたことに、感謝を申し上げたい。
 第1部では、ネット通販と宅配便の全体像を、国際的な視点とプラットフォーム論の視点から把握しようとしている。第1章では、国際的な視点からネット通販の急成長とそれを支えるロジスティクスの高度化を把握している。アメリカ、ヨーロッパ、日本、中国におけるネット通販とその配送サービスの特徴を明らかにするとともに、ネット通販のロジスティクシステムの概要やラストマイルで宅配便が果たす役割を議論している。第2章では、宅配便の革新がネット通販に及ぼす影響について、複数事業者の連携関係を土台に事業運営の戦略を分析するプラットフォーム論の視点から議論している。そもそも独立したビジネスであるモール型ネット通販と宅配便が、どのように相互に関係しながら発展してきたか分析する。
 第2部では、主要国におけるネット通販と宅配便の共通性と多様性を浮き彫りにする。第3 章では、消費者向け配送サービスとして、世界でもっとも高度に発展を遂げた日本の宅配便を取り上げ、その発展過程と最近の当日配達体制の整備について議論している。第4章では、ネット通販先進国のアメリカにおける最新事情について、フルフィルメントセンターの整備やラストマイルにおける宅配便事業者の役割の変化等を分析している。第5章と第6章では中国を対象に、ネット通販事業者の物流への取組み状況と宅配便事業の特徴について、主要事業者のケーススタディ等を通じて把握している。第7章では、日本のネット通販事業者が期待を寄せる中国向け越境ネット通販について、中国での展開の形態や物流面での課題をまとめている。第8章では、越境ネット通販と国際宅配便について、航空貨物事業者、フォワーダー、宅配便事業者の取組み状況を把握している。
 第3部では、イノベーション論と交通論の視点から分析を行っている。第9章では、ヤマト運輸が自ら第3の革新と宣言する「バリュー・ネットワーキング」について、イノベーション論の視点から検討を加えている。第10章からは交通論の視点からの分析となり、まずネットワーク最適化問題の類型化を試みている。第11章では、ネット通販普及を促す購買費用の低下について、モデル化により実店舗型と通販型の比較を試みている。第12章では、ラストマイルネットワークモデルにより、軒先集配、チーム集配等の比較を行っている。第13章では、宅配便の幹線輸送について実データを用いてモデル化を図っている。本書の執筆者は巻末に記載のとおりであるが、多くの方々のご協力がなければ刊行できなかった。研究プロジェクトメンバーであるヤマトホールディングス高野茂幸氏、小坂隆弘氏、大島尚人氏、ヤマトロジスティクス佐々木啓介氏には、実務面からのチェックをお願いしただけでなく、国内外のインタビュー調査や情報提供で多大なご協力をいただいた。研究会で報告していただいたヤマトグローバルロジスティクスジャパン書川美樹氏には、多大なご教唆をいただいた。また国内外の現地調査では、上海大衆佐川急便物流有限公司、三井倉庫株式会社等で多くの方々にあたたかくお迎えいただき貴重な情報を提供していただいた。ここに記して御礼を申し上げたい。
 本書は、公益社団法人日本交通政策研究会の4年間に渡る研究プロジェクトの成果であり、同研究会双書の一冊として出版の許諾を頂戴している。研究環境と出版事情が厳しいなか、ご支援いただいた日本交通政策研究会には最大の感謝を申し上げたい。プロジェクト研究では研究会事務局の星野譲事務局長と舟見悦子氏、出版時には金沢貴子氏のご助力があった。出版編集に際しては、株式会社成山堂書店のご協力があった。ここに感謝を申し上げる次第である。

2015年5月
編者 林 克彦・根本敏則

【目次】
第1部 分析の視点
第1章 ネット通販に対応したロジスティクス
 1.1 ネット通販の急成長と配送サービス
 (1)アメリカ
 (2) EU
 (3)日本
 (4)中国
 1.2 ネット通販のロジスティクスシステム
 (1)ロジスティクスシステムの構成
 (2)物流センターの役割
 (3)物流センターの立地
 (4)ロジスティクス機能の外部調達
 (5)クリックアンドモルタルのロジスティクスシステム
 1.3 ネット通販のラストマイル
 (1)ラストマイルの課題
 (2)宅配便事業者への委託
 (3)時間帯指定配送
 (4)商品受渡場所の設置
 1.4 貨物・旅客交通に対する影響

第2章 宅配便の革新が通信販売に及ぼす影響について  2.1 はじめに
 2.2 プラットフォームについて
 (1)プラットフォームについての議論
 (2)プラットフォームとしてのネット通販
 (3)宅配便ロジスティクス基盤の特性
 (4)プラットフォームの二面市場と間接ネットワーク外部性に関する先行研究
 2.3 ネット通販の事業展開とフルフィルメント機能高度化の動き
 (1)ネット通販企業の事業展開
 (2)フルフィルメント機能強化の効果
 (3)宅配便ロジスティクス基盤の高度化
 2.4  ロジスティクス基盤をめぐるネット通販企業と宅配便企業の競合・補完関係
 2.5 複合プラットフォーム論による検討
 2.6 ロジスティクス基盤の補完と競合の戦略的選択

第2部 主要国における実態
第3章 宅配便の発展とネットワークの革新
 3.1 ネット通販を支える宅配便
 3.2 宅配便の発展
 (1)宅配便取扱量の推移
 (2)革新的な消費者物流サービス
 (3)B to B 輸送需要の取込み
 (4)通販需要の急成長
 3.3 宅配便サービスの高度化
 (1)消費者の視点に立った各種サービスの開発
 (2)通販関連サービスの開発
 (3)メール便
 3.4 宅配便産業の変化
 (1)寡占化
 (2)ネット通販が宅配便産業に及ぼす変化
 3.5 翌日配達を支える輸送ネットワーク
 (1)ハブアンドスポークシステム
 (2)ヤマト運輸のネットワーク
 (3)佐川急便のネットワーク
 (4)日本郵便のネットワーク
 (5)宅急便の荷物の流れ
 3.6 当日配達のための宅配便ネットワーク
 (1)宅配便事業の革新
 (2)ヤマト運輸の「バリュー・ネットワーキング」構想
 (3)当日配達ネットワーク整備の課題

第4章 アメリカのネット通販とロジスティクスの課題  4.1 アメリカのネット通販とロジスティクス
 4.2 ネット通販の歴史にみるロジスティクスの課題
 (1)ネット通販の新たな動向
 (2)食料品・雑貨ネット通販の先駆者ウェブバン
 (3)ロジスティクスの失敗と継続
 4.3 ネット通販で求められるロジスティクスの機能
 (1)ネット通販におけるロジスティクスの重要性
 (2)ネット通販におけるオーダー・フルフィルメント
 4.4 ネット通販におけるラストマイル機能
 (1)ラストマイルの課題と主体
 (2)大手宅配便事業者と郵便事業者の寡占化
 (3)地域運送業者の台頭
 (4)ネット通販事業者による自家配送
 (5)新たな配送形態の出現
 4.5 ネット通販の物流センター機能
 (1)物流センター機能の課題
 (2)物流センター機能の充足
 4.6 まとめと今後の展望

第5章 中国のネット通販拡大と物流の現状  5.1 はじめに
 5.2 中国におけるネット通販の発展
 5.3 ネット通販事業者とその物流への取組み
 5.4 事例分析
 (1)アリババグループ
 (2)京東商城
 (3)蘇寧易購
 5.5 まとめ

第6章 中国における宅配便事業の急成長とその特徴  6.1 宅配便事業の現状と課題
 (1)宅配便事業の急成長
 (2)運営形態
 (3)ネット通販需要の取込み
 (4)宅配便サービスの課題
 6.2 宅配便事業に対する規制政策
 (1)事業規制
 (2)業務規制
 (3)大都市の車両運行規制
 6.3 フランチャイズ方式による宅配便事業
 (1)調査対象の概要
 (2)集配体制
 (3)フランチャイジー間積替
 (4)幹線ターミナル
 6.4 中国インテグレーターの出現
 (1)順豊速運有限公司の概要
 (2)順豊の標準的なサービス
 (3)順豊の特徴的なサービス
 6.5 日系宅配便事業者の進出
 (1)上海大衆佐川急便物流有限公司
 (2〉雅瑪多(中国)運輸有限公司
 6.6 まとめと今後の展望

第7章 中国向けネット通販事業の形態と物流面での課題  7.1 中国でのネット通販事業の展開方法
 (1)中国で自らネット通販サイトを立ち上げる方法
 (2)中国にいるバイヤーが日本のネット通販サイトにアクセスする方法
 (3)中国のネット通販サイトへ出店する方法
 7.2 日系物流事業者によるネット通販支援システム
 (1)スコアジャパン
 (2)ベリトランス
 (3)三井倉庫
 7.3 まとめ

第8章 越境ネット通販と国際宅配便  8.1 越境ネット通販の成長
 (1)世界の越境ネット通販
 (2)日本の越境ネット通販
 (3)越境ネット通販の配送方法
 8.2 国際宅配便の成長
 (1)世界の国際宅配便
 (2)インテグレーターによるハブアンドスポーク体制の整備
 (3)日本事業者による国際宅配便
 8.3 日本産農水産物輸出への取組み
 (1)農水産物・食品の輸出戦略
 (2)農水産物輸出に対応した物流サービスの開発
 8.4 アジア地域における新たな航空貨物ネットワーク
 (1)全日本空輸によるハブアンドスポーク体制の整備
 (2)沖縄ハブ
 (3)国際クール便の開発
 8.5 航空ロジスティクス展開の必要性

第3部 理論・実証分析
第9章 ヤマト運輸の宅急便におけるイノベーション
 9.1 イノベーションの類型と動態論化
 9.2 宅急便イノベーションの動態的過程
 (1)宅急便の開発期
 (2)宅急便の成長期
 (3)「バリュー・ネットワーキング」とB市場への転換
 (4)宅急便にみる「意図的な市場軸の転換」とイノベーション
 (5)宅急便におけるイノベーションのジレンマの回避戦略

第10章 宅 配便ネットワークの経済とネットワーク構築問題の類型  10.1 はじめに
 10.2 宅配便ネットワークにおける規模の経済
 (1)宅配便ネットワークの費用と産出量
 (2)宅配便ネットワークの費用が産出量に与える影響
 10.3 ネットワーク形態の変化とネットワーク最適化問題の関係
 (1)輸送ネットワーク構築の計画
 (2)多層化した宅配便ネットワーク
 (3)宅配便ネットワーク構築問題へのアプローチ
 10.4 先行研究の類型化
 10.5 まとめ

第11章 販売・購買費用の低下と宅配サービスの役割  11.1 はじめに
 11.2 実店舗型流通と通販型流通の形態
 (1)小売事業者の販売形態の変化
 (2)消費者の購買行動の変化
 (3)実店舗型とネット通販型の流通形態
 11.3 ネット通販による販売費用と購買費用の変化
 (1)小売費業者の販売費用の比較
 (2)消費者の購買費用の比較
 (3)消費者にとってのネット通販における時間以外の費用
 11.4 宅配サービスの発展と販売・購買費用
 11.5 まとめ

第12章 ラストマイルネットワークの比較  12.1 はじめに
 12.2 宅配便ネットワークにおけるラストマイルネットワーク
 (1)指定場所受取りサービス
 (2)時間帯指定
 (3)集配方式
 12.3 チーム集配の効果
 (1)想定ケースと条件
 (2)配送ルートの仮定
 (3)各配送密度の費用とCO2排出量の検証
 12.4 まとめ

第13章 宅配便ネットワークにおける幹線輸送モデル  13.1 はじめに
 13.2 本モデルにおける総費用の定義
 13.3 費用削減効果
 13.4 制約条件
 (1)満載トラックの直行
 (2)ターミナル間の相互の運行トラック台数
 (3)時間制約
 13.4 モデルの計算フロー
 (1)フローチャート
 (2)単位あたり費用の決定
 13.5 施策の概要と結果
 (1)ケース1(10t車)
 (2)ケース2(セミトレーラー導入)
 (3)CO2削減効果
 13.6 施策の概要と結果



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カテゴリー:物流 
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