日本の船員と海運のあゆみ ー戦後復興からグローバル経済下の船員社会ー


978-4-425-94881-9
著者名:藤丸 徹 著
ISBN:978-4-425-94881-9
発行年月日:2021/12/28
サイズ/頁数:A5判 308頁
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「船員という職業集団のリアルな貢献と歴史を残したい」という著者の真摯な思いが詰まった1冊!

敗戦占領下・戦後復興、船員教育の改変、海運再編・集約、中東戦争やベトナム戦争、イラン・イラク戦争、便宜置籍船・混乗船・近代化船、緊急雇用対策など、海事業界の船員に関する大きな変化を追いながら、その時々に実際の船員の働く現場で起こった具体的な出来事、エピソードを現場目線で紹介。敗戦からの復興、繁栄、衰退の船員を描いた”激動の昭和”を生き抜いた船員の姿を紹介。

【はじめに】 本書は,戦後から昭和の終わりまでの外航船に乗り組んだ船員の記録である。今日の船や船員の状況と昭和時代のそれとは,大きく変わった。この間の船舶ならびに運航技術の格段の進歩や変革,海運界を取り巻く内外の政治や経済,国際環境は激変している。
往時,毎日の新聞各紙地方版には,出入港船の船名,トン数,出入港時間,仕向け地,仕出し港などが掲載されていて,市民にとって船は身近なものだった。また港は市民に開放された公共空間として市民のものであった。市街地近くの公共岸壁に接岸している船は,港を散策する市民にとって憧憬の対象で,船員たちと親しく接し,語り合う機会も少なくなかった。
しかし今日では,大型化と専用船化が著しく,船が入る港は人里離れた僻地の専用バースが多く,市街地近くの港に入る船であっても岸壁は高いフェンスに囲まれ,船員の上陸機会も市民の往来も著しく制限される。
船員と市民の交流,共存と情報の共有,船への理解と共感は減少するばかりだ。同時に,昭和の時代から30 年余経った今日では,かつての船や海運,さらには船員生活を知る人も少なくなってきた。
壊滅と混乱の中で戦後復興に挺身し,今日の経済大国に至る道程を底辺で支え,人知れず多大な役割を果たしてきた船員のあゆみと実績は,西日の彼方に忘れ去られようとしている。
海運の果たす役割や重要性を記述した入門書や解説書,海運論,海運概説,海運史など,先学諸兄が著した文献は多数あり,専門的学術的なそれぞれの立場から論述されている。こうした文献の多くは,船で働いた船員が紹介されているものは管見の限り希である。
一方で船員からは,多くの体験記や航海記,寄港記などが発信されていて,こうした個人史は重要で資料的記録として貴重だ。だが,それらは個人的な体験を記述したものが主で,戦後の海事史の中でどのような場面で記録され,位置づけされるものか明らかなものは少ない。
そこで本書では,歴史的な経緯を縦軸に,その時代背景の中で閉ざされた船内で仲間とともに世界中の海に就航した船員を横軸に,昭和の時代の船員職業のありのままの姿と船の航跡を記述した。
四面環海のわが国にとって,海運の果たす役割と重要性を語り知らせるのは,やはり元船員の仕事ではないか。そこで,知られることの少ない戦後の船員たちが,怒涛の海を走破し,数多の困難を乗り越えながら,どのように船内で働き船舶運航に献身し活躍したのか,そして内外の激変する政治・経済社会と向き合い,如何に生きてきたのか,その一端を知っていただけたら幸いである。

2021年12月
著者 藤丸 徹

【目次】
序章 船を失った海洋日本
 科学的合理性なき戦略の果て
  戦時体制下の船舶
  保有船舶の81%(843万総トン)が喪失
  壊滅の背景-地獄の海を航く船員たち-
  続出した戦没船と海に沈んだ船員
 長かった戦争が終わって
  「ミズーリ号」の水先案内人
  機雷の海と化していた東京湾-決死の覚悟で臨む-

第1部 戦後復興の礎と経済成長を支えた船員
第1章 630 万人の引揚げ輸送
 救援待つ海外同胞 10
 「民族の大移動」を支えた船員
  樺太引揚げ船の3 隻の殉難
 引揚げ輸送の開始
  「頑張れ,頑張れ」と声をかけ
  孤島の飢餓将兵を救う
  「浮島丸」の悲劇
  アメリカ軍貸与船で輸送
  マッカーサーからの乗船命令
 全日本海員組合の創立
  いち早く結成された船員を支える組織
  船員の不満が爆発したバラックシップ
  アメリカの戦時標準船に驚嘆
  「激動の昭和史」を運ぶ民族の大移動

第2章 占領下の商船と船員  海洋国家の苦難
  自減寸前の国民生活
  圧殺される日本海運
  SCAJAP旗を掲げた日本商船
 終戦直後の船員事情
  苛烈だった9.10海上スト
  若き航海士たちの夢
  新船員法の誕生
 占領政策の転換
  戦時体制からの脱却-待望の「民営還元」-
  計画造船のスタート
   コラム1:戦後の復興を担って
 朝鮮戦争と船員
  戦火迫る仁川から危機一髪の脱出
  仁川上陸作戦に出動
  船員から怒号が
  戦後の太平洋を初めて渡る
  再び日の丸を掲げて
  罵声が飛び交うフィリピン

第3章 忘れ得ぬ戦標船  戦後も船員悩ます劣悪船
  戦標船とは
  人間性無視の船内環境
  石炭焚き船 あわや横転の危機
  乗船前の投炭訓練
  コロッパスの悲哀
  レシプロからディーゼルヘ
   コラム2:石炭焚き船の機関部員

第4章 生と死の狭間で  海難多発の1954年
  忽然と消えた「辰和丸」
  青函連絡船「洞爺丸」の悲劇
  「紫雲丸」と「第三宇高丸」の衝突
  ライフラフトがあれば
  「最後の航海」で沈没
  火災のアメリカ船を救助
 西の空に太陽が昇った!?
  「第五福龍丸」を直撃したビキニ水爆実験
  日本中を騒然とさせた「原爆マグロ」「黒い雨」報道
  被災船舶1400 隻以上
  ハエ取り紙をマストにぶら下げて/同級生も乗船していた

第5章 海にロマンを求めた若者たち  商船教育の変遷
  船員のエリートを育む
  歴史上の幻となった学校
  戦時から平時へ
  高等商船から大学へ
   コラム3:商船大学のシンボル-船の重要文化財-
 海上進出の伝統を担う
  海洋志向の土壌と伝統
  難関を突破して
  工場実習と社船実習
  商船高等学校の昇格運動
 再編された船員教育
  1年制の海員養成の開始
  戦場に散った少年船員たち
  海員学校の新たな船出
  部員の再教育によって職員に
  「再教育の殿堂」海技大学校の再生
   コラム4:甦る練習船!

第2部 戦後からの脱皮と船員
第6章 海と戦後社会
 経済成長期への助走
  「海事思想」の普及
  海運立国の条件-範となるイギリス-
  戦前の50%まで回復した船舶保有量
  同好会“ 海の友の会” の活動
 海事広報活動の積極的な展開
  日本海事広報協会の設立
  反響呼んだ海上の記録
  船員とその妻の往復書簡集
  感動を与えた「航海記」
  戦時商船の記録発表の手応え
 海と船と船員を描く
  学者たちの航海体験
  作家たちが書いた海と船員
  父への思慕を胸に秘めて
  告発的手法で海と船を著す
  愛渇くところ「南氷洋」
  ユーモア満載!ドクトルの航海記
  船を真正面から描く
  海上から発信された海や船の暮らし
  船員の持つヒューマニズム
  多彩なジャンルで海を語る
   コラム5:船乗りになれなかった作詞家の想い

第7章 船乗りたちの仕事  チームワークで動く船
  多様な職務分掌
  船を動かすトップリーダー
  南米移民1万人を運ぶ
  移民船,最後の航海
  初の西廻り世界一周の試練
  終生忘れえぬ航海
   コラム6:大理石と再会
 新米船員の仕事
  商船大学を出たけれど
  3等航海士の失態
  新造船受け取り機関士の苦労
  機関士の初仕事
  無我夢中で過ごした初乗船
 セーラーワーク
  ハッチ仕舞い
  航海中のセーラーワーク
  往時のブイ係留
  甲板部の役職
 船員を支えた妻たち
  船員を待つ家族
  出産や子育ての苦労
  再会を待ちわびて

第8章 中東戦争と日本船舶  緊迫のスエズ運河を航く
  紛争が続くスエズ運河
  最後の船団
  世界の海運への影響
 中東戦争で被弾炎上
  ミサイルの直撃受ける
  必死の消火作業
  日本人船員の真価を発揮

第9章 変貌する海上社会  高度経済成長の下に
  経済を底辺で支える船と人
  臨海工業の奇跡
  海運集約:再建2法により6グループに再編
 定期航路の貨物船
  高速貨物船の登場,スピード競争
  花形だったニューヨーク定期航路
  邦船が初めて就航する五大湖航路
 専用船の出現
  鉄鉱石専用船「さんたるしあ丸」
  単調な航海の日々/3万6000トンを満載
 通信体制の変遷と通信士
  局長さん,次席さん,三席さんの3人体制
  船舶無線局の運用と執務(当直)体制
  一瞬の緊張が走った無線室
  通信士の削減とGMDSS
 世界を驚かせた自動化船
  日本に先を越されたアメリカのメンツ
  船舶運航の大きな変化
 巨大化するタンカー
  マンモスタンカー「日章丸」の登場
  巨大船の操船
 急激にすすむ技術革新と船舶士構想
  新しい船員制度の確立に向けて
  Mゼロ船の出現と「超自動化船」
 大型鉱石船の遭難
  「ぼりばあ丸」の大惨事
  「かりふぉるにあ丸」の遭難
  船体が真っぷたつに折損
  続く船長の受難
  船長の責任と最後退船義務
 保有船腹2000 万トン突破
  世界最大の海上貨物輸入国へ
  コンテナ船時代の到来
  海上輸送革命とビストン航海

第10章 経済成長下の船員社会  原子力船『むつ』の就航と挫折
  前のめりの開発
  長期の漂流に抗して
  全日本海員組合「総員下船」を決定
  船長の協力と貢献
  さもなくば船体放棄
  拍手と歓声で迎えられ母港へ帰港
  「むつ」が提起した問題
 船医の活躍
  船医(シップドクター)の下船
  洋上での開腹手術
  ベーリング海での悲しい別れ
  ガタガタ震えての縫合手術
 ベトナム戦争の激化と船員
  東西冷戦を背景とした代理戦争
  戦争に関わった日本人船員
  戦車や武器弾薬,枯葉剤の輸送
  ベトコン元兵士からの反論に絶句
 労働運動の高まりと史上空前の91 日長期スト
  「人間性の回復」をスローガンに
  陸上と大きく異なる海上ストライキ
  船乗りたちのストライキ
  長期ストライキの残したもの

第11章 激変する船員社会  世界を巡る日本の船舶
  アマゾンの奥地を大型船が行く
  海図も見ないパイロット
  待っていた巨大な浮桟橋
  トランパー(不定期船)の航跡
  連日の荒天航海
  船内での余暇
   エピソード:「さばな丸」の総トン数の深まる謎
 二兎を追った兼用船
  兼用船の就航
  炭油兼用船「千歳川丸」の航海
  鉱油兼用船「君津山丸」の作業
  自動車ばら積兼用船
  RO-RO式の採用
  復航貨物積載の準備
  短命に終わったカーバルカー
 裏方に徹した司厨部員たち
  ボーイたちの活躍
  司厨部の日課
  なんでも作る船舶調理手
  三国間航路の苦労
  洋上補給
  船内の正月
 原子力潜水艦に沈められた「日昇丸」
  瞬時に行き脚が止まった
  多くの疑惑と謎に包まれて
  海上自衛艦の不可解な行動
  米軍発表と乗組員証言の違い
  死体が語りかけるもの
 イラン・イラク戦争と狂気の海
  被弾した3隻の日本船
  悪夢が続いたペルシャ湾航路
  日本人の犠牲者
 湾岸戦争に参加した「中東貢献船」
  終わらない中東の紛争
  戦争への「貢献策」
  目的地は戦場だった
  隠ぺいされた船長報告

第3部 グローバル経済下の船員社会
第12章 外航海運の大転換
 FOC船と混乗船の出現
  揺らぐ雇用基盤
  「菊池構想」の発表とその後
  混乗船の出現と拡大
  新聞記者の乗船取材
  混乗船の拡大は続く
 外国人船員との共同生活
  見えないカーテンのような壁
  フィリピン人3等航海士のメイドは3人
  フィリピン人クルーとジャンケンポン
  のんびり屋のミャンマークルー
  真摯で的確な3等航海士
  緊急下船
  多様性との共存
 混乗船で海賊に遭遇
  深夜の「Attention all crew!(アテンションオールクルー!)」
  人質救出作戦
  国境を超えた共有と共感

第13章 近代化実験の開始と終焉  目的は乗組員定員の削減
  奇妙な船のイラスト
  実験船から始まった
  100年の伝統から脱皮
 順調に推移した「実験」の数々
  船員2法の改正へ
  近代化C実験船「まきなっくぶりっじ」
  2時間かかるデイリーチェック
  しばしの高雄上陸
  陸上支援班の応援
  近代化船で何とか生き残る
 近代化実験船の調査員
  乗船調査の繰り返し
  「淡水魚が海水に入れられて…」
  入湾前の本人の意思確認
  休んだ気にならない船内休日
  壮大な合成の誤ご謬びょう

第14章 終わりの始まり  ターニングポイントとなる1980年代
  昭和の終焉:バブルがはじけるまで
  キンコタイの背景
  職場委員の苦悩
  船長の怒りと転換
  キンコタイと家族や子供たち
 会社に抗して
  職域開発チームからの退職勧奨
  「船員やめない会」
  熾烈な報復
  長く苦しい戦いの始まり
  原職復帰の勝利で和解
 へいかち船員の決断
  海から陸へ
  退職のその後

終章  海鳴りのかなたへ  波静かなれ とこしえに
 戦没船員の碑
 戦没船員の顕彰
 戦没船を記録する会
 戦没した船と海員の資料館
 あの海に行きたいと願う遺族たち
 荒波に翻弄された船員概史
 海事広報への新たな取り組み
 事実上の徴用
 予備自衛官化のレールが敷かれた
清規と陋規
FOCの規制
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