昆虫と気象 気象ブックス011


著者名: 桐谷圭治 著
ISBN: 978-4-425-55102-6
発行年月日: 2002-07-28
サイズ/頁数: 四六判 190頁
在庫状況: 在庫あり
価格(本体価格)

1,728円 (1,600円)

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日常の気象から地球温暖化まで、昆虫の大発生、害虫管理、昆虫媒介病などに及ぼす影響を新しい切り口で解明した最先端の書。

【まえがき】より
 本書の表題はおそらく近代の応用昆虫学でも最も古くてかつ新しい問題である。後に英国のバッタ対策センター(ALRC)の初代所長に任命されたB・P・ウバロフ博士が『昆虫と気候』という本を世に出したのが1931年で、その当時すでに少なくとも1300もの関連の論文が世界で公刊されていた。ウバロフはそれを総括することによって、害虫の発生を予知し、これを駆除することに役立てたいと述べている。日本でもこの流れを汲んで官製の発生予察事業が発足し、研究予算の乏しい第二次大戦後の病害虫防除の研究と事業を支えてきた。戦後の食糧不足を背景に、発生予察事業は農薬散布のための病害虫の発生時期(可能なれば発生量も)の予知とその早期発見に重点が置かれた。しかしウバロフが「気象条件のみが昆虫に作用すると信ずるのは誤り」と警告したにもかかわらず、日本の発生予察事業は気象要因と発生時期の統計的相関に過度に依存するという誤りを犯した。
 いま人類の活動が二酸化炭素ガス濃度の増加による地球温暖化をもたらしつつある。さらに都市部におけるヒートアイランド現象は、地球温暖化の先兵として各種の予期しない現象をもたらしている。冒頭で“新しい問題”といったのはここにある。
 本書の表題を初めは「気象と昆虫」と考えていた。しかし具体的な執筆の打ち合わせで「昆虫と気象」ということになり、昆虫が気象より前にでることになった。何でもないことのように見えて、これは書き手にとってはかなり大きな違いである。初めの表題では、ややかしこまった教科書風の物がイメージされるのに対し、あとの「昆虫と気象」では総花的にこの問題を扱うのではなく、虫を中心に物語風に書くことを期待されているように考えられる。また「気象と昆虫」では、主役は気象で、その影響を受ける昆虫は受け身であつかわれる。これに対して、後者では、時には気象も利用して自身の生活を支えている、主役としての虫の生活がうかがえる。
 気象の昆虫に対する影響といえば、変温動物の昆虫が、高温から低温、日射から降雨や風などの物理的条件の変化に対応して、体内でどんな生理的変化を起こしているか、あるいはどのようにそれを避けたり、利用したりして行動するか、また季節による食物やえさのあり方と自己の生活史をどのように同調させているかなど、いろいろな見かたができる。私はこれまで昆虫生態学とくに個体群生態学の立場から害虫の問題を中心に研究してきた。それで害虫の話題が多くなるとともに、また体内の昆虫生理のことよりも、行動や生態に話の重点が置かれることになった。
 この本では昆虫と気象の話に焦点を当てたので、昆虫により興味のある読者には、その先を知りたいという人もあると思う。本文にそれを入れると閑話休題的になり、話の流れを折る恐れがある。そこで各節の終わりに研究日誌の項をもうけた。本書が日本における「昆虫と気象」の21世紀における研究のスタートラインを引けたとすれば、こんなに嬉しいことはない。

【目次】
第1章 虫たちと気象

 1・1 二つの顔をもつバッタ
  サバクワタリバッタの移動と大発生
  アフリカでの大発生
  バッタとイナゴ
  バッタの相変異-群生相と孤独相
  群生相の行動
  大発生の始まりと終息
 1・2 日本に定着できない密航者-トビイロウンカとセジロウンカ
  ウンカの大発生と気象条件
  ウンカ海を渡る
  ウンカの坪
  日本に定着できないウンカ
 1・3 病害虫発生予察事業と気象要因
  相関法
  メイチュウの生息密度に基づいた予察
 1・4 害虫化したミナミアオカメムシ-気候と気象
  ニューフェイス登場
  ミナミアオカメムシに駆逐されたアオクサカメムシ
  種間交尾の結末
  二首が共存する機構
  アオクサカメムシの単生地帯の成立
  生命表から気象の影響を見る
  台風の影響
  越冬場所の死亡率
 1・5 ハスモンヨトウとコサラグモ
  施設で増えたハスモンヨトウ
  舞台回しはコサラグモ
  クモから解放されたハスモンヨトウ
 1・6 雪と昆虫
  雲が多いとツマグロヨコバイは少ない
  雲をめぐるマイマイガとトリの知恵比べ
 1・7 上昇気流と空中プランクトン
  ユスリカの蚊柱
  竜巻のような蚊柱
  レーダーにうつる空中プランクトン
  エコーをどう読むか
 1・8 ブナアオシャチホコの大発生と気象
  ブナアオシャチホコの生態
  大発生の特徴-同調性は気候要因が起こす
  周期的な密度の変動は何で起こるのか
  なぜ特定の標高帯に大発生するのか
  第4の仮設
 1・9 アメリカシロヒトリの季節順応
  日本への侵入と分布拡大
  光温図表で読む生活史の変化
  “ヤマトシロヒトリ”の出現

第2章 虫たちと温度
 2・1 体温調節
 2・2 各種の限界温度の防除や分布予測への利用
  ハウスの蒸し込み
  米の低温貯蔵
  ミバエ類は日本本土に定着できるか
 2・3 積算温度法則
  積算温度法則とは
  コナガの発育ゼロ点(T。)と有効積算温度(K)
  分類群によるT。とKの関係
  T。、Kの地理的変異
  発育段階とT。
 2・4 ヒートアイランド
  マイクロヒートアイランド
  タイリクヒメハナカメムシとヒートアイランド

第3章 地球温暖化と昆虫
 3・1 地球温暖化の兆し
 3・2 温暖化は早いスピードで進んでいる
 3・3 昆虫の北上の証拠
 3・4 異常高温年における昆虫の反応
 3・5 気候の変動が害虫に及ぼすさまざまな影響
  植物の質の変化と昆虫
  昆虫と寄生植物の同時性
  年間世代数の増加
  水田の昆虫群集への影響
  警戒すべきウンカの動き
 3・6 地球温暖化が種間関係に及ぼす影響
  種間競争への影響
  植食者-天敵の関係への影響
 3・7 昆虫媒介病
  作物とウイルス病
  ヒトと昆虫媒介疾病

(気象図書)

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