ナマコ学-生物・産業・文化-


著者名: 高橋 明義・奥村 誠一 共編
ISBN: 978-4-425-88591-6
発行年月日: 2012-07-24
サイズ/頁数: A5判 230頁
在庫状況: 在庫あり
価格(本体価格)

4,104円 (3,800円)

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50年ぶりにまとめられたナマコ研究の成果!

○ナマコの生物的な謎の解明に個体と分子レベルの観点から挑む
○旺盛な中国の需要をターゲットにした生産・養殖技術、流通・消費の動向を紹介する。
○古来より漢方の素材として、民族の文化として書物に記されているナマコを探る。

【序文】より
 本書では生物・産業・文化の3点から『ナマコ』を論じた。平成21年9月に盛岡で開かれた日本水産学会水産増殖懇話会のテーマ「ナマコ増養殖の現状と将来~持続可能な生産方法の確立を目指して」を基底として企画されたナマコの専門書である。『生物』では読者対象として理学系・水産系の学生や研究者を念頭においた。『産業』では漁業・水産加工・流通の各関係者を、『文化』においては、ナマコの歴史に興味をもつ読者人の発掘を狙った。
 ナマコの『生物』を扱ったのは第1章から第5章である。個体レベルと分子レベルの双方からナマコの生物学の解明に挑んだその成果が記されている。ナマコの生態については現在も未解明な点が多く残されているが、潜水調査などによる着実な成果により、謎が解き明かされつつある(第2章)。ナマコは棘皮動物門、有棘亜門、ナマコ綱の動物である。ナマコの分類には現在もさまざまな案が提案されているが、本書ではその標準となる案を提示した(第1章)。分子生物学的アプローチにより、分類の議論に終止符を打った成果もある(第5章)。繁殖に係る研究分野には特に成熟と発生の観点から迫り、ナマコにおけるナマコの生理活性ペプチドの作用を解明した、無脊椎動物の神経内分泌研究における輝かしい成果もある(第3章、第4章)。
 第6章から第10章では流通経済を含むナマコ『産業』に視点を向けた。国内では、ナマコは消費量が少なくマイナーな存在である。しかし、地域振興のための重要な素材として期待されている(第10章)。また、貿易を軸として視点を海外に転ずると、中国向け輸出品として重要な位置を占めている(第9章)。これに呼応して国内での漁獲量が増加しており、その資源造成のために種苗生産と放流・養殖が行われている(第6章)。さらに、完全養殖を確立して生産管理を試みる取り組みもある(第8章)。中国でも大連を中心とした沿岸部でナマコの生産が行われている(第7章)。中国におけるナマコ養殖の基本技術はわが国由来とも言われている。広大な養殖場で手がけられているが、その技術は日本ではあまり知られていない。国際魚介類であり、わが国の輸出食品素材の一翼を担っているナマコの、生産方法から流通・消費の動向を紹介する。
 第11章と第12章では『文化』を主題とした。ナマコの民俗、これは、あるいは人々とナマコの触れあいと言ってもい。ナマコは時には特別な食材となる。普段食されるのは少量であるが、三陸沿岸地方では暮れにはどんぶり一杯ものナマコが食卓に上がって年越しを感じさせる。この時期、店頭でも山盛で売られる。ナマコとの付き合いが古いことは、紀元前に遡る中国医学の古文書に、そしてわが国では古事記に記載されていることからもわかる。ナマコに対する人々の認識を文献の中に探った。
 本書の原稿は、執筆者が多数であるにも係わらずきわめて順調に集まり、平成22年の秋には出そろった。しかし平成23年3月11日に発生した東日本大震災のあおりを受けて、編集作業が半年以上も停滞した。その日の14時46分、筆者は最終稿を記録したCDを携えて、新幹線で大宮あたりを東京へ向かっている途中であった。その後の空白の期間、校正して出版まで辛抱強くお待ちいただいた執筆者の皆様に厚くお礼を申し上げる。本書の刊行においては㈱成山堂書店小川典子社長ならびに編集製作に心血を注いだ宮澤俊哉氏と本間俊輔氏に深く感謝を申し上げる。本書の上梓により三陸水産業の復興を祈念する。

平成24年6月
編者代表 高橋明義

【目次】
第1章 分類と形態

 1.1 ナマコの分類と形態
  1.1.1 外部形態
  1.1.2 内部形態
  1.1.3 生態
  1.1.4 分類
 1.2 日本列島周辺海域に生息するナマコ
 1.3 各目も特徴
 1.4 マナマコの学名をめぐる問題
  1.4.1 学名の変遷
  1.4.2 マナマコは1種か2種か
  1.4.3 A.japonicusはどの色のナマコか
  1.4.4 マナマコ属の分類上の問題点
  1.4.5 動物分類学とは

第2章 生態
 2.1 生活様式
 2.2 移動、活動性
 2.3 増殖
 2.4 摂食
  2.4.1 摂食法
  2.4.2 食性
  2.4.3 摂食量
 2.5 成長
  2.5.1 体サイズの測定
  2.5.2 成長パターン
  2.5.3 冬眠、夏眠
 2.6 他種との関わり
  2.6.1 捕食者
  2.6.2 寄生・共生者
  2.6.3 底質や他種に与える攪乱
 2.7 マナマコの生態
  2.7.1 北海道のマナマコ、本州のマナマコ
  2.7.2 マナマコの生息地
  2.7.3 稚ナマコの生息地
  2.7.4 マナマコの成長と生息地利用
 2.8 マナマコ資源の増殖

第3章 成熟・産卵
 3.1 卵成熟と精子成熟
  3.1.1 卵と精子の形成
  3.1.2 卵成熟とは何か
  3.1.3 精子成熟
 3.2 イトマキヒトデの卵成熟研究
 3.3 マナマコの卵成熟研究
  3.3.1 丸山、白井らの先行研究
  3.3.2 近年の研究の現状
  3.3.3 マナマコ“クビフリン”の研究
 3.4 まとめ
  付録1.GSS-Lの精製
  付録2.マナマコ神経抽出液の調整法
  付録3.神経抽出液精製法およびホルモン候補物質特定法
  付録4.クビフリンの構造と活性
  付録5.実用試薬としてのクビフリン

第4章 発生と再生
 4.1 発生
  4.1.1 有性生殖発生
  4.1.2 無性生殖発生:出芽・分裂
 4.2 再生

第5章 分子分類・育種
 5.1 ナマコ類の遺伝学的研究の現状
  5.1.1 酵素活性の問題点
  5.1.2 DNA抽出の
  5.1.3 遺伝育種学への期待
 5.2 マナマコの色彩変異3型の遺伝的類縁関係と地域集団構造
  5.2.1 色彩の定量的・定性的評価
  5.2.2 DNAマーカーによる集団遺伝学的解析
 5.3 ナマコ類の資源保全と増養殖生産において遺伝学的手法の果たす役割

第6章 種苗生産と栽培漁業
 6.1 世界の取り組み
 6.2 わが国の取り組み
 6.3 人工種苗生産手法
  6.3.1 親育成
  6.3.2 採卵(受精卵確保)
  6.3.3 幼生飼育
  6.3.4 採苗
  6.3.5 稚ナマコ育成(初期育成または1次飼育)
  6.3.6 中間育成
 6.4 種苗放流
 6.5 栽培漁業について

第7章 中国におけるナマコ養殖
 7.1 ナマコ養殖への道程
 7.2 中国のナマコ種苗生産
  7.2.1 幼生飼育技術
  7.2.2 中間育成技術
 7.3 中国のナマコ養殖
  7.3.1 養殖様式と養殖場所
  7.3.2 養殖場の環境
  7.3.3 放流サイズと放流密度
 7.4 中国ナマコ養殖の生産規格
  7.4.1 無公害ナマコと品質
  7.4.2 ナマコの病害と治療
 7.5 これからのナマコ養殖

第8章 ビジネスとしての陸上完全養殖
 8.1 陸上完全養殖とは
 8.2 成熟
 8.3 採卵・採精・受精
 8.4 幼生飼育
 8.5 稚ナマコ飼育
 8.6 幼ナマコ飼育
 8.7 ナマコを用いた複合養殖
 8.8 総括・将来展望

第9章 流通・経済
 9.1 中国におけるナマコの流通・経済
  9.1.1 中国におけるナマコの位置
  9.1.2 中国におけるナマコの消費
  9.1.3 中国におけるナマコの輸入
  9.1.4 中国におけるナマコの漁獲・養殖動向
 9.2 日本におけるナマコの流通・経済
  9.2.1 日本産ナマコの評価
  9.2.2 日本産ナマコの輸出実績
  9.2.3 日本のナマコ生産・加工
 9.3 2008年以降のナマコをめぐる環境の激変
  9.3.1 中国でのナマコ産業の変化
  9.3.2 日本産ナマコの需要

第10章 地域資源・経済モデル
 10.1 地域資源と地域振興
  10.1.1 地域資源としてのナマコ
  10.1.2 地域資源と地域振興
 10.2 付加価値の取り組み
  10.2.1 付加価値の取り込みの必要性
  10.2.2 水産物のブランド化
 10.3 ナマコの活かし方
  10.3.1 青森県むつ市川内町漁協の取り組み
  10.3.2 青森県横浜町漁協の取り組み
 10.4 地域資源としてのナマコの課題

第11章 中国医学・漢方
 11.1 漢方医学と本草学
  11.1.1 漢方医学
  11.1.2 本草学
 11.2 漢方の中のナマコ
  11.2.1 本草書中にみるナマコ
  11.2.2 ナマコの名称と漢方における効用

第12章 ナマコと文字文化
 12.1 ナマコの扱われ方
 12.2 歴史書・律令の中のナマコ
 12.3 古典的料理書にみるナマコ
 12.4 民俗におけるナマコの扱い
  12.4.1 縁起物「俵子」
  12.4.2 神の食べ物「神饌」
  12.4.3 悪霊除け?「むぐら打ち」
 12.5 蘭学者が記したナマコ
 12.6 江戸時代の文芸
  12.6.1 俳句に詠まれたナマコ
  12.6.2 漢詩に詠われたコノワタ
  12.6.3 滑稽本では歌舞伎の名役者
 12.7 ナマコを愛した明治の文豪
  12.7.1 ナマコと近代の文学作品
  12.7.2 『吾輩は猫である』-夏目漱石
  12.7.3 空のナマコ・地のナマコ-宮澤賢治
 12.8 現代の文芸とナマコ

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